露痕をそのままにした三浦の眼差し。
喉を締めつけられるくらい、苦しさでいっぱいになる。
どうしてそんな顔するの、と口を開きたかったけれど、それより早く三浦の腕がするりと背中に回った。
「ごめん、」
ぼそりと呟かれた言葉に、榛名は眉を寄せた。
「なんで、謝るの」
恐る恐る問いかけてみたけれど、三浦は答えようとしなかった。
肩口に籠る温もりが頼りなくて、堪らず頬を寄せる。
深くなる呼吸に耳を澄ますと、添えられていただけの両手に力が入った。
「ごめん」
チャイムが二人の沈黙を破るまで、三浦が発した言葉はそれきりだった。
*
「それじゃ、次回は来週の月曜日なんで、それまでプリント配布と諸々お願いします。はい解散」
体育祭委員長が手を叩いて乾いた音を鳴らすと、張り詰めた空気が解けてゆく。
『体育祭開催のお知らせ』と題された保護者向けの資料の角を揃えていると、頭上から上野が言った。
「リレーの順番決まったら教えろよ」
荒っぽい口振りに、榛名は上野を見上げた。
「絶対隣のレーンで俺の背中見せてやるからな」
上野の視線は三浦に突き刺さっている。
ある日の緊張感が戻ってきたようで、心臓がざわざわとし始めてくる。
そんな榛名の不安をよそに、三浦は鼻で笑った。