その日、榛名はただならぬ緊張感のせいで、肩に重石が乗っているようだった。


おまけに左半身の体温が高いような気がする。



「訊いたぞ、リレーの代表に手上げたって」


腕組みをした上野が右隣で呟く。


「良かったよな、お前のクラスの陸上部、田中だけで」



「別に、周りが色々言ってるの面倒だったんだよ」


左隣で、三浦がこめかみを掻きながら呟く。


「いやあ、だってびっくりしたもんなあ、幽霊部員があんなに俊足なんて」



『お前、なんで今まで陸上さぼってたんだよ』と、三浦の影に男子が乗り出した。


彼は三浦と同じクラスの体育祭委員だった。


悪気がないのは分かっている。


俯いているから分からないけれど、きっとにこにこ笑っていたのだろう。


「あたっ、何すんだよ、」


「余計なこと言うなよ」


小突かれた音が生々しくて、榛名は思わず顔を上げた。


笑っている彼を見て安堵すると、ちらりと見遣った隣の三浦と目が合う。



凄まじいスピードで顔を反らしたけれど、”あの日”の彼の残像が頭から離れてはくれなかった。



「あれ、北村さん調子悪い?」



ぱっ、と視界に飛び込んできたのは、上野だった。


榛名の机に乗せた左手に体重をかけてこちらを覗き込んでいる。


「なんか、顔赤いけど」