彼女は真っ赤に染まった傘を、水溜まりの中に浸してしまった。
彼女の視線は真っ直ぐで強くて、明らかに意識を持ってやっていることだった。
その異常な行動に、誰もが釘付けになっていると、彼女は俺の前に立った。
バン!
軽快な音とともにその傘が開く。
『な、何すんだよ!』
姿勢を傾けると、三人衆は全身に泥水のしぶきを浴びた。
『女の子を馬鹿にしてたら痛い目に遭うのよ!お望みならもう一回どうぞ!』
そう叫んで、彼女は銃のように傘を突きだした。
『お、お前、覚えてろよ!』
半べそをかきながら走り逃げて行く三人衆を見送ると、彼女はふと俺を見下ろした。
その強さに俺ですら後退りしてしまいそうな恐怖は、一秒先には吹っ飛んでいた。
『もうだいじょうぶよ、”アキちゃん”』
おさげを揺らしながら彼女は微笑んだ。
目尻には泣きぼくろが二つ。屈託のない笑顔でその手を差し出した。
その時、俺は初めて恋に落ちた。
真っ赤な盾で守ってくれた、勇敢で可愛らしい彼女に。
それが”ハル”との出会いだった。