「……お兄ちゃん」


 藍斗に聞こえないほどの小さな声で私は呟いた


「ん? 何か言った?」


 藍斗が少し身体を放して私の顔を覗き込んできた


「ーーっ!? 何でもないよっ」


 私は冷や汗をかきながら藍斗の背中をポンポンと叩いた


「早く退院して、学校に行きたいな」


「……早く治せよ」


 藍斗は私を抱きしめていた腕を解いて、鞄を取ってきた


「じゃあ、俺は帰るな……今から『仕事』だから」


「う、うん。またね。気をつけてね」


 笑顔を必死に浮かべながら私は藍斗に手を振る


ーーまた一人になっちゃう


 本当は寂しいけど、そんな理由で藍斗を引きとめられない


 私の気持ちが分かったのか、藍斗はそんな私の頭を優しく撫でた


「また来るから」


 そう言い残すと藍斗は私のいる病室を後にした


 私はふう、と大きなため息をつくと暗くなった窓の外を見た


ーーしっかりしなきゃ


 黒に染まった空には綺麗な星が広がっていた


「綺麗だな……」


 涙が零れそうになるのをなんとか堪える


「……私ってこんなに泣き虫だったっけ?」


 私は一人病室で声を殺して泣いた