翔太と撫子と久遠が家路についた


病室には藍斗が残ってくれた


「……藍斗?」


私はそっと呼びかける


でも藍斗は全然私の方を向かない


暗くなってきた窓の外の風景を見てるだけだ


「……心配かけてゴメンね。 私、大丈夫だから」


私は藍斗が見ているだろう外の風景を一緒に見る


ーー藍斗の声、久しぶりに聞いたな


「……そういえば、私たち学校以外で会うのは久しぶりなんだよね。藍斗も元気にしてた?」


藍斗は答えない


それでも、私は話し続けた


「藍斗は辛い思いはしてない? 身体の調子は悪くない? まだ、仕事してるの? それにーー」


私はいったん言葉を切った


藍斗がゆっくりと私に向き合ったからだ


「……藍斗?」


「大丈夫なのか、怪我は」


私は藍斗の声に涙腺が緩みそうになった


ーー泣いちゃダメ、泣いちゃダメ


「全然大丈夫だよっ!…… 交通事故にあったからっていって入院はし過ぎかなっては思っちゃうくらいだし」


ーー私は大丈夫、大丈夫だから


藍斗は無言で私を見つめてる


「……本当に大丈夫だからね? 叔母さんにもよくして貰ってるし」


そう、養母は自分の娘のように私を育ててくれる


「お母さんとお父さんは元気? 藍斗と仲良く暮らしてる?」


私の質問に藍斗は僅かにだが目を見開くと、辛そうな表情をした


「……どうしてお前はお前を見捨てた親の心配をするんだ」


藍斗の髪が窓の外から吹いてきた風に揺れる


夕方に吹く風は気分を落ち着かせると私はいつも思う


だからかもしれない


涙腺が緩みやすくなるのは


「……藍斗」


「お前が一番俺らの事を憎んでもいいのに、どうして俺らの心配をするんだ」


「……憎むだなんて」


ゆっくりとした歩調で藍斗が私の方に歩み寄ってくる


「俺だってお前の兄貴なのに何もしてやれないんだ。学校でだって偽りの友達だろ?」


「……そんなことないよ」


そう


藍斗は私の双子の兄だ


血は繋がっているが大人の事情で離れ離れに暮らしている


私は生まれてすぐに今の養母に預けられた


正直、何故藍斗は両親の下で育てられて私は養母に育てられているかは分からない