和くんはあたしを少し離して、大きな声でグラウンドに向けて怒鳴った。
「悠衣(ゆうい)」
呼ばれて、顔をあげた。
和くんの瞳とあう。
「心配するなって。悠衣のために点を入れるから、アイツじゃなくて、オレを見ててくれよな!」
「アイツ? あたしが応援してるのは、和くんだけだよ。がんばってね!」
「おう」
和くんはあたしのおでこに軽くキスをすると、右手をあげながら、背を向けてグラウンドへと走った。
和くんに見えるわけはないけれど、あたしも右手を振り返しながら、それを見ていた。
和くんは仲間に合流し、頭を軽く叩かれたりしてる。
遠目だからわかりにくいけど、和くんは鼻をかいてるように見える。
それは照れたときの和くんの癖だ。
もしかしたら、あたしのことでからかわれてるのかな、と思ったら、あたしの顔もゆるむ。
和くんがまだ見ているあたしに気づき、手を振ると、チームメイトに何か言われてるようだった。
一人クスクス笑いながらそれを眺めると、あたしも離れた木陰で待つ友達のもとへ戻った。