「おっせーよ!」


俺たちが波止場に着いた時、朔弥はながじぃと共に小型の船に乗っていた。


「まあ、そない急かさんでも」


ながじぃは笑って、仁王立ちの朔弥の肩をたたきながら言った。

笑うと垂れる目元のしわが緩み、優しげな雰囲気を醸し出す。
歳を聞いたことはないが、ながじぃは白い頭と似つかわしくないほどいつも元気だ。

丁寧に年を重ねてきたんだろうなあと思う。


「あ、お世話になります」


慧が野菜の入った袋を渡した。


こういうところ、慧はしっかりしている。

親しき仲にも礼儀あり、が田舎で暮らす上でも不可欠だと慧は言う。
そしてそれを実践できているところがさすがだ。


ながじぃは嬉しそうに袋を受け取り、船室へ入って行った。


「あれ? 朔乃は?」

「ああ、船室だよ。朔乃はいい話し相手なんだってさ。朔乃も、ながじぃには結構なついてるみたいだし」


少し間をおいて、朔弥がにっと笑って見せた。


「とゆーことは、男3人。この前の話、ちゃんと聞いてねーんだけど」


……早く着いてくれ、養殖所。