「なあ、翔瑚」


朔弥は相変わらず俺たちを急かしていたが、慧に合わせてゆっくり歩いた。


「しつこいけど、この前のさくの言葉、あれ、何なんだよ」

「……そういうことだよ」


そうとしか、言いようがなかった。

朔乃の言葉はやっぱり事実になったんだ。


真珠の話を聞いて、野球の話をしたあの日から、俺は毎日アクアと会っていた。

ただ自分たちや自分たちの世界について喋ったり、フルフィルパールについて議論を交わすこともあれば、静かに夕陽を眺めている時もある。


会わずにはいられなかったし、あの洞くつに行きさえすれば大抵アクアはそこにいて、小さく歌を歌ったり、貝を数えたりもしていた。

洞くつにいない時は海底に潜って真珠についてのヒントを探したり、はたまた錆びた船の碇などを見つけては洞くつに持って上がって、興味深く眺めたりしているらしかった。


今日も、帰ってから洞くつへ行くつもりだ。


「そういうこと、って……ふたまたか?」

「いや、そーゆーわけじゃ……」


アクアとは、つきあっているなんてわけじゃない。

でも、毎日会っていて、でも、俺は夏帆と付き合っていて……


「……いや、わかんねえや」

「何だそれ」


慧は俺の頭に手をおいて笑った。


「まあさ、難しいことだってあるよな」

「あるよな」

「でも、翔瑚は結構周りが見えてない方かな」

「え?」

「鈍いと思うこと、よくある」

「鈍い?」

「こういう場合の鈍いってのは、大体ひとつの意味に絞られると思うけど」


慧は俺の髪をわしゃっとかき乱してから、朔弥たちの方へ急に走り出した。