「アクア……?」

「わたし、怖かった」


乾きかけた髪から、弱く潮の香りがする。


「翔瑚が家族と会って、向き合うことができて。翔瑚が嬉しそうだから、わたしも嬉しい。でも少し、怖かったの。翔瑚が帰ってこなかったらどうしようと思った。なんだかわからないけれど、今……複雑な気持ち」


行ってらっしゃいと言ってくれたアクアを思い出す。

鈍い鈍いと言われる俺のことだから、アクアをそんな気持ちにさせていたなんて、気づいていたはずもない。


「アクアが待っててくれたから、帰ってくるの、当たり前だ」

「うん……ありがとう」

「そんなこと思ってくれてるって、知らなかった。これからは、何でも言って」

「じゃあ、好き」

「え……」

「何でも言ってって、翔瑚が言うから」


ちょっと澄ました顔で、アクアが言う。ずるい、と思った。


「わたしには、帰る場所、ないもの。だからきっと、こんなに不安なのね」

「あるよ」


え? と言うようにアクアは俺を見た。


「ここ、海がそうだよ。アクアのかえる場所。ずっと変わらない。それに海は、俺のかえる場所でもある。全ての生き物のかえる場所だって、アクアが言ってた」


不意を突かれたようにアクアは黙っていたが、徐々に笑顔になっていった。