"諒"
颯兄がそう呼んだ……黒野諒を。
名前で呼び合うほどの関係なの?
颯兄に目を向けると颯兄は私を見ていた。
「……瑚琴……」
眉を下げている颯兄。
"ごめん、瑚琴……"
と確かに颯兄の唇が動いた。
一瞬で何についての"ごめん"なのかはわかった。
私が族を嫌うあの事件のことにだ。
「……颯、兄っ……」
颯兄は私が言ったあの事をちゃんと覚えていてくれたんだ……。
きっと、颯兄が暴走族にいるのも優しい颯兄のことだから何か理由があるんだよね……。
「瑚琴、おいで」
いつもより優しい笑みを浮かべて私を呼ぶ颯兄。
私の体は脳が命令するよりも先にその場を走り出して颯兄の腕の中に飛び込んでいた。
嗅ぎ馴れた颯兄の香水の匂いが颯兄の温もりが優しく私を包み込んでくれて私に安心感を与えてくれた。