「なぁ、俺の妹に何してくれてんだお前ら」
地を這うように聞こえてくる低い声。
瞳は獲物を捉えたように鋭い。
こんな颯兄知らない……。
颯兄なのに、颯兄じゃないみたいな気分だ。
「鬼麟の総長が一人で乗り込んでくるなんて、驚きだな」
さっきのように全然驚いた様子も見せない黒野諒。
颯兄の前に笑顔で行く。
「あ?俺は質問してんだよ。答えろ」
「残念ながら、まだしてないよ」
"まだ"という言葉を強調して言う黒野諒に、颯兄の眉間の皺がさらに濃くなる。
「なら、サッサと妹返せや。こいつは、鬼麟の総長である真城 颯汰の妹だ。てめぇらみてぇな奴等が手を出していい相手じゃねぇーんだよ」
"真城颯汰"
それは紛れもなく私の兄の名前で、よく聞きなれた大好きな名前。
でも……私は知らない。
"鬼麟の総長の真城颯汰"
なんて……知らない。
私の目の前にいる颯兄は颯兄であって、颯兄じゃないそんな感覚だった。
いつもの優しい颯兄は……いない。
いるのは、眉間に皺を寄せて黒野諒を睨み付けていて今にも殴りかかりそうな雰囲気を漂わせていた。
さっきの雰囲気とは違って緊迫した雰囲気が漂う。