あっと、何かを思い出したように私を見てくる祥先輩。
さっきっていうのは……ここに連れてこられた時でいいんだよね?
今、私の元にスマホはないし。
「……兄ですけど」
「お兄さんの名前は?」
颯兄が、族なわけないよ。
だって……あの事件は、族のせいで起こったんだから……。
私が、暴走族を嫌いなことを知ってる颯兄が暴走族なわけがない……。
「……そ、颯兄が暴走族なわけない……っ!!族なわけがない……そ、颯兄……颯、兄……っ」
「……子猫ちゃん?」
頭にフラッシュバックのように蘇るあの時の記憶……。
怖い、怖い、怖い、怖い。
頭を抱えて蹲る私の元に駆け寄ってくる黒野諒。
それと同時に鳴る私の携帯。
「……あっ、瑚琴ちゃんの携帯に電話だ。……真城、颯汰……」
――ガーンッ!!
祥先輩が言った颯兄の名前に顔を上げると同時に部屋の扉が開く音がして全員がそっちに目を向ける。
「なぁ、俺の妹返してくんねぇーか?お前らみたいなのが、瑚琴に触ってんじゃねぇよ」
「……颯……、兄?」
扉が壊され開かれた所から見えたのは、見覚えのある颯兄のいつもより険しく怖い顔と……白いベンチコートみたいに長いものを着ていてそれには……
『鬼麟 十代目』
と書かれていた。
暴走族が着る……特攻服を着ていた。
「鬼麟の真城 颯汰……」
みんなが、颯兄をそう呼ぶ……。
"鬼麟"と。
なんで……颯兄が、暴走族なんか……。