そう言って不敵に微笑む黒野諒。
この人にだけは……送ってもらいたくないんだけど。




「ほら、ついておいで」




ベッドから降りて黒いパンツが見えるほど下がっているズボンの上にその辺に脱ぎ捨てられていたと思われるしわくちゃなワイシャツを拾うとそれを着る。



着るというより……羽織るのが正しい気がするけど。
ワイシャツのボタンを1つも止めず、筋肉質の良い上半身を惜しむ事なく見せびらかす。




「……ん?どうしたの、子猫ちゃん。俺に、見惚れてた?」




「…………」




私の目は自然とその綺麗な体にある痛々しい複数の傷に向いていた。
痛そう…………。




「……子猫ちゃん?」



「……っ!?」




耳に息をかけられてハッとするとすごく近くに黒野諒がいて後ろに後ずさっていた。
近すぎるんだよ、こいつは。





「そんな顔しなくても、もう痛くないから」




そう言って自分の体の複数の傷を指さす。
今は、痛くなくても……跡が痛々しく残るってことはその時はすごく痛かったはずだよ……。




「そんなことより、俺はこっちのが痛いんだけど?」




前屈みにしゃがんだと思うと私の手形がついた方の頬を突き出してくる。
うわ、綺麗にもみじ型だ……。




「……どこもかしこも真っ赤だから変わんないでしょ」




傷もあるけど、首やら胸に赤いキスマークがあちらこちらに散らばっていた。
儚く散っていく……赤い花のように。





「あぁ、俺の子猫ちゃんたちは元気だからね」




そう言って"ハハハッ"と笑ってドアノブに手を掛けると扉を開く。
扉が開いた瞬間、防音だったのか……静かだったのにいきなり耳が痛くなる。




金属で何かを殴る音……バイクのうるさいほどのエンジン音のせいで。
うるさすぎる……。





「こっち」




黒野諒の言ったことが聞こえず黒野諒の方を見た瞬間に腕を掴まれて黒野諒はそのまま隣の部屋まで行って隣の部屋の扉を開ける。




このうるさい中平然としてられるなんて……ありえない。


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