放課後、いつものように人気のない教室へ向かって足をすすめる。
今日は美玲ちゃん、西倉くんとデートっていって帰っちゃったからなぁ。

今日は美術部の活動日じゃないけど、『恋』についてかんがえなければならない。といっても、美術部が活動する日は週に一回程度だからいつでも使って構わないのだけれど。

『カチャッ』
鍵を開けて、中に入る。誰もいないけど、ここの空間が私は好き。考え事をするときは用がなくてもここにいる。

「はぁ…疲れた」

私のいつもの席は、窓際の所。ここの席は日があたって気持ちいい。
ふと、窓の外を眺めると…

「あ、美玲ちゃんたちだ。相変わらずラブラブだなぁ。」
その光景に微笑ましくなる。

「『恋』を考えながら、日向ぼっこしてよ…」

私は外の様子を長い間見ていた。

だんだんと生徒たちが下校していく。あれ、今日は全部活ないのかな…。
だってグラウンドにいるの1人なんだもん。
グローブをしているから、きっと野球部のひとだ。

「……高橋くんかな?あれ…。」

グローブをして球を投げている人物は、私のクラスの高橋瞬くんだった。けど…。
いつものニコニコ笑っている高橋くんの表情じゃなくて、今の高橋くんの表情は、真剣そのものだった。
汗だくになりながらも高橋くんは球を投げ続けている。

「なに…この気持ち…。」

この胸の中からわき上がってくる気持ちはなんなんだろう。嫌な気持ちじゃないけど、切なくなって、胸が締め付けられるような…淡い痛み。
気づけば私は、手に持っていたスケッチブックに高橋くんの姿を描いていた。

そっか…これが、恋なんだ。
自覚したら、全身の熱が顔に集中するように熱くなった。

「き、奇跡だ…恋…私が、高橋くんに…?」
口に出すのも恥ずかしいけれど、それと同時に虚しさが込み上げてくる。

私が高橋くんを好きになった所で、結果なんてたかが知れてる。高橋くんの回りには私なんかが敵わない大人っぽくて、可愛い人たちがいっぱいいる。高橋くんに近づくのさえ難しいのに、こんなんじゃもっと無理だよ。

私の初恋は儚く砕け散ってしまうのか。

「とりあえず、今日は帰って休もう」

私は美術室をでた。