「ただいま」
誰もいない家に入り、僕は静寂に向かい、帰宅を告げる
「ふぅ…今日は卵が安かったなぁ♪」
買い物袋をキッチンのテーブルに置いて、一息つく
「あ…そうだ…!」
僕は仏間に向かう
「ただいま…」
仏壇に向かい、手を合わせる
そこには写真が1つ…僕の母さんだ
「さて…夕飯作らないと!」
僕はキッチンに向かい、支度をする
今日はチキンカレーだ
手間は食うけど手作りだ…ご飯を炊いて野菜や、鳥肉を炒めながらカレーの準備をする
それに、カレーはタッパーに詰めて冷凍保存出来るから便利なんだ
「〜♪〜♪」
料理をしてる時は楽しい
寂しさを忘れられるから…
僕は坂崎レンジ、14歳
普通の中学2年生だ
母親は僕が幼い時に他界…うっすらと記憶があるくらいだ
父親は単身赴任…僕には兄弟はいない…つまり、現状僕は今、1人暮らしみたいな状況だ
「出来たー!」
チキンカレーの完成だ!
僕は食器を用意してご飯を盛ろうと炊飯ジャーに向かうと、玄関からチャイムが鳴り響く
「ん…誰かな?」
僕は玄関に向かう
「どちら様ですか?」
「東京地検特捜部です」
「は?」
ドア越しからは女性の声
「東京地検ちょくしょ…特捜部です」
「マコ姉ぇ…しかも噛んでるし」
「開けなさい」
「イヤですよ…特捜される様な悪い事はしてないですよ?帰って下さい」
「やーん!蚊に刺されちゃうー!開けてよう!」
「はいはい…」
玄関の扉を開けるとそこにはマコ姉ぇ
僕の従姉妹にあたる、高校2年生のお姉さんだ
季節は夏、今は夏休み
マコ姉ぇはTシャツにキュロットのラフな格好だ
とっても綺麗なお姉さんなんだ
「ひゃーまだ夕方だってのに暑いねぇ!」
マコ姉ぇは家に飛び込む
「おーう!クーラー涼しー!」
「で、マコ姉ぇ、どうしたの?」
「あーそうそう!かーちゃんからお裾分け!ほい!」
マコ姉ぇが差し出したのはタッパーの塊
僕はマコ姉ぇからそれを受け取る
「ホント?嬉しいなぁ♪んと…煮物に干物に…キュウリの浅漬けだね」
「そーそー!キュウリの漬物は私が作ったんだよ!」
マコ姉ぇが威張る
「まーキュウリ切っただけだけど」
…作った内に入るのかなそれ…
「クンクン…良い匂いね…今日はカレーね?」
「うん!まぁ煮物とかは保存して頂くよ…ありがとね」
「しかも!チキンね?」
「…鼻が効くね…正解だよ…食べてく?」
「うんうん!ご馳走になっちゃうー!レンジ君の料理美味しーんだもん!」
「はいはい!」
そして僕らは夕飯を食べる
「おー美味いわー!さすがねぇ…」
モリモリと、女子高生とは思えない勢いでカレーを食べるマコ姉ぇ
「ジャガイモは入ってないからね?足が早いし…夏だからね」
「レンジ君…マジで主婦みたいね…」
「そう?」
「普通いないわよ…料理が完璧な中2男子なんて」
「そうかな?」
「いないってば…大体、中2男子なんて部活かエロい事しか考えてないでしょ?」
「まーそうなのかな?」
「いやー嫁に欲しいわ♪」
「嫁?僕は男なんだけど…」
「まーまー例えよ例え!私んとこに主夫としてくれば、私とセックス出来るわよ?」
「あのね…従姉妹だよ?」
またなんて事を…
「あら?従姉妹でも結婚は出来んのよ?しかも!中出し出来ちゃうわけよ?」
「マコ姉ぇ…!女の子なんだから…」
「アッハハ♪冗談よ〜!て割りにはレンジ君私の体を舐める様に見てるし」
…視線でばれてしまった
「ふぃー!食った食った!ごちそーさん!」
「うん…それにしても大盛り2杯をよく食べたね?」
マコ姉ぇはお腹をポンポンと叩いて満足そうだ
作り手としてはとてもうれしい♪
そして、食器を片付けてマコ姉ぇにアイスコーヒーを入れる
2人で居間でくつろぐ
「つーかさぁ…レンジ君、ウチで住まない?かーちゃんもとーちゃんも…妹のマナも大歓迎よ?」
中学生の半ば1人暮らし…それを心配しての事だろう
「うん…ありがとう…でも、3ヶ月に1度は父さんも帰ってくるし、それに家って人が住まなくなるとらすぐダメになるって言うし…」
「そりゃそうだけどさ…」
マコ姉ぇはグラスの氷をカラカラと音を立たせる
「それに、マコ姉ぇの家って50m位しか離れてないじゃん…それだけで助かってるよ」
「まぁね…でも1人で寂しくないの?」
「…うん…こうやってマコ姉ぇ来てくれるし、役所関係の難しい事なんか叔母さんがやってくれるしね…本当、助かってるよ」
「そか…分かったわ…つーか…もうすぐねぇ…」
マコ姉ぇはアイスコーヒーを飲み干すと蛍光灯を見つめながら呟く
「もうすぐ?」
「忘れた?…ナナちゃんの…」
「……!!」
一瞬、沈黙する…蛍光灯の明かりの独特の音がやけに耳にまとわりつく
「いや…君が忘れる訳無いか…だってナナちゃんだもんね」
「うん…まぁね…」
僕はそう告げるとアイスコーヒーのグラスの氷がカランと音を立てる
「…忘れるなんて無理だけど…元気…出しなさいよ?」
「…そうだね…ていうか…そんなに元気無い?僕…もうあれから4年は経つけど…」
「まぁね…伊達に君の従姉妹やってる訳じゃないのよ?…時々寂しそうに見えるからね」
マコ姉ぇは凄く鋭い人…
僕の普段からの態度や表情で色々読まれてしまう
「ま…早く好きな人見つけなよ?」
その言葉に僕は複雑な思いになる
「お姉ちゃんが恋人になってあげようか?」
「あのね…」
「ふふふ♪冗談よ!ま!部活とかクラスメイトだって女の子は沢山いるんだから…ね?」
「うん…ありがと…」
「さて…私は帰るかなぁ…ごちそー様ね!」
マコ姉ぇは帰って行く…そして、また僕はこの家に1人になる
ソファに横になる
蛍光灯を見つめる
…蛍光灯…そろそろ切れるな…
買いに行かないと…
遠くに祭囃子が聞こえる…
「ほら!早く行こうよ!お祭り終わっちゃうよ?」
僕を手招きする、小さな女の子
可愛らしい浴衣に身を包み、早くお祭りの会場に行こうと僕を急かす
「まだ終わらないって…」
「いーから!早く!」
「はいはい…」
彼女は桜川ナナちゃん
僕の幼馴染だ
お互いに小学3年生…いつの頃からか…2人はお互いに仲良くなって、登下校はもちろん、学校も、放課後もいつも一緒だった
「とーちゃくー!おー…人がたくさんね…!」
お祭りの会場である神社に到着すると、普段は閑散としている神社に人がたくさん歩いていた
辺りにはたくさんの出店が軒を連ねている
「あ!そうだ!」
ナナちゃんはクルリと一回転してポーズを取る
「どう?」
「…何が?」
「何がって…浴衣が似合うかどうかに決まってんでしょバカ!」
肩にパンチを喰らう僕
「痛い…」
「で、似合う?」
「う…うん!似合うよ!うん!可愛い!」
ここで似合わないなんて言ったら今度は蹴りが来る…
「やっぱりぃ♪へへ〜♪」
満足そうなナナちゃん
実際、浴衣を着てなくても充分に…とっても可愛らしい女の子
特に、ニッコリと笑った彼女の笑顔は僕は大好きだった
これでさっきみたいなパンチが無ければなぁ…
「レンジ!綿あめ!綿あめ食べよーよ!」
さっそく見つけたのか、ナナちゃんは綿あめの出店を指差す
「うん…!分かったよ!あ…走ったら危ないって!」
そして、ナナちゃんと2人で綿あめを食べる
「あまーい…!美味しーねぇ♪」
僕に笑顔で語りかけるナナちゃん
その笑顔にドキッとしてしまう
「あ…!」
ナナちゃんは何かを見つけたのか、小走りである出店に向かう
「……」
ナナちゃんが無言で見つめるのは出店に並ぶオモチャのアクセサリー
「…欲しいの?」
「…あ…ううん」
ナナちゃんは若干の拒否をしながらも、アクセサリーの指輪を見つめる
「…おじさん…それ…2つ下さい」
「え…?」
ナナちゃんが目を丸くする
「レンジ…」
「今日はお祭りだから、おこずかい多めにもらったし…大丈夫だよ!」
「ありがとう…」
そして、指輪を買ってナナちゃんに渡す
ナナちゃんにはピンクのガラスの指輪
僕はブルーのガラスの指輪だ
せっかくだから色違いで、おそろいにしたんだ
「あのさ…レンジ、あっち行こう…!」
ナナちゃんはそう言うと僕の手を引っ張る
「なになに?どうしたの?」
そして連れて行かれたのは神社の裏手にある空き地
神社は高台にあって、そこの場所からは僕らの街が一望できる
そこには誰もいない
そして、ナナちゃんはさっきの指輪を僕に返して来る
「え…いらないの?」
「いや!違うわよ…その…あの…レンジがさ、指にはめてくれないかなぁって…」
「僕が?」
「うん…お願い…!」
「別にいいけど…」
ナナちゃんは左手を差し出してくる
僕は手を取り、指輪をはめようとする
「ちょ…!アンタ…なんで人差し指なのよ!」
「え?ダメ?」
「薬指!!薬指よ!」
「薬指…まぁいいけど…」
(…意味が分かって無いのね…)
ナナちゃんが何かを呟く
「ん?何?」
「あー何でもないわ!早く!」
そして、ナナちゃんの薬指に指輪をはめる
「へへ…ありがと…!」
ナナちゃんは左手を天にかざして凄く満足そうだ
そして、また2人でお祭り会場に戻る
「おー!レンジ君にナナちゃん!君達も来てたの?」
マコ姉ぇが妹のマナちゃんの手を引き、僕らに向かって手を振る
「うん…マコ姉ぇも来てたんだね」
「まぁね〜あら?ナナちゃん…それは何?レンジ君も」
マコ姉ぇは僕らのはめている指輪を見る
でも、すぐにニタニタと笑ってナナちゃんに語りかける
「そーいう事をねぇ…いやーナナちゃんもやるわねぇ!」
「いや…その…!」
ナナちゃんが慌て始める
「いやーレンジ君もまた…」
するとナナちゃんがマコ姉ぇに組み付く
「ちょっと!マコちゃん!余計な事言わないでよね!」
「あーはいはい!そりゃーもう…そう言った事は自分で言わないとねぇ♪」
「マコちゃん!」
「アッヒャッヒャ♪夏だってのに…こっちまで暑くて溶けちゃうわ!ウヒャー♪」
「ムキー!殺す!マコちゃん殺す!」
ナナちゃんがマコ姉ぇをポカポカと叩き始める
「アッヒャッヒャ!ウッヒャッヒャ♪」
マコ姉ぇはナナちゃんの攻撃を華麗にかわしつつ、変な踊りをする
楽しかった…あの頃は…
毎日が楽しかった
ナナちゃんがいるだけで、本当に充実してたと思う
1日が過ぎるのが本当に早かった
でも、そんな幸せな毎日は、長くは続かなかった
あのお祭りから程なくして、ナナちゃんは体調を崩して倒れてしまう
それまではすごく元気だったのに…急な事だった
倒れたのはお祭りがあった年の冬の事だった
僕は毎日お見舞いに行った
1日も欠かさないで…
年が明けてもナナちゃんは退院出来なかった
そして、新緑が芽吹く春先
「ナナちゃん…」
「あ…レンジ…」
病院の個室、ナナちゃんはベッドに横になっていた
「今日は施設の人は?」
「ん…もう帰った…よいしょっと…」
ナナちゃんはベッドの上で体を起こす
普段は後ろで縛っていた髪も、めんどくさいのか縛っていなくて肩まで下がっていた
「そか…施設の人、なんか言ってた?」
「んー…別に…安静にってくらいかな?」
施設…
ナナちゃんは身寄りが無い女の子だった
お母さんもお父さんも、ナナちゃんにはいなかった
理由は僕は知らない
ナナちゃんも、自分から親の事を話す事は無かった
「あ…ミカン食べる?持って来たんだ!」
「あ…うん…ありがと!にしても…アンタ毎日来なくても良いのよ?アンタだってお家のお手伝いとかあんでしょ?」
僕はミカンを手渡しながら答える
「まぁ、家の事は大丈夫だよ!」
実際、僕も母親はいなかった
まだ僕が小学生だった頃は父さんはこっちで仕事をしていた
とっても忙しい仕事だったから、炊事、洗濯は僕がやる事が多かった
ナナちゃんはミカンの皮を剥こうとする
「ん…!んしょ…!…ゴメン…レンジ、皮剥いてくれる?」
「ん?いいよ!」
ナナちゃんからミカンを受け取る
後から思えば、もう、手の力も満足に入れられない程ナナちゃんは衰弱してたんだ
「はい!どーぞ!」
ナナちゃんは僕からミカンを受け取るとそれを口にする
「甘い……これ…美味しいわね…」
「良かった♪」
「甘いって…言ったらさ…お祭りで食べた綿あめ…あれ…美味しかったわね…」
ナナちゃんは僕と目を合わせるでもなく、窓から見える景色を見ながら呟く
空気の入れ替えだろうか、窓は少し開いていた
風に吹かれてカーテンが緩やかにダンスをしていた
「うん…また一緒に行きたいね!」.
僕はそう答えると
「フフ…♪当たり前じゃない!こんな病気、さっさと治してまた遊ぶわよ!」
ナナちゃんは少し声を張り上げて僕に告げる
「そうね…約束よ…今度のお祭りも、一緒に行きましょ!」
「うん…!約束だよ?早く元気になってね!」
僕らは指切りをする
何の偶然だろうか…その時、何故か僕らは左手で指切りをした
お互いの薬指には、あのお揃いの指輪がしてあった
学校以外で2人でいる時は、その指輪をつけると半ば強要されていたんだけど…
悪い気はしなかったので毎回つけていたんだ
悪い気なんかするもんか…!
好きな女の子のお願いなんだから…
でも、ナナちゃんはお祭りに行く事は無かった
「どうしてよ!…グス…!なんで死んじゃうのよ…!」
目を真っ赤に腫らして泣きじゃくるマコ姉ぇ
お祭りの直前のある日、ナナちゃんは旅立ってしまった
ナナちゃんのお葬式…
僕は立ち尽くして、泣きじゃくるマコ姉ぇ、そして棺桶の中で静かに目を閉じるナナちゃんをずっと…交互に見ていた
ナナちゃんが息を引き取ったのは夜半過ぎ
僕はサヨナラも言えなかった
「ほら…レンジ君…ナナちゃん…撫でてあげて…?」
マコ姉ぇに言われ、そっとナナちゃんの頬を撫でる
…硬かった…
死体というのはあんなにも硬いと、僕は初めて知った
「それと…ほら…これ…」
マコ姉ぇは僕に指輪を差し出す
「君があげた指輪…ナナちゃん、とっても大事にしてたんだよ?私にも触らせてくれなかった…」
それを形見にと言う意味だろうか…マコ姉ぇは僕の手のひらに指輪を握らせる
その後は、殆ど覚えて無い
マコ姉ぇや父さんから聞いた話だと、丸一週間、水しか口にしなかったそうだ
それくらい…ショックだったんだ…
「…!!」
僕は目を覚ます
あのまま…ソファに横になったまま寝こけてしまったんだ…
それに…またあの夢…
楽しかった頃の夢…
しばらくは見てなかったのになぁ…
時計を見ると既に夜中の1時
もう日が回っていた
「シャワー…浴びよう…」
僕はそのままシャワーを浴びる
そして、シャワーを浴び終えて自分の部屋に戻りベッドに入り目を閉じる
眠い…でも寝れない…
眠いのに寝れない…そんな不思議な感覚の中、僕は再び起き上がる
そして、机の引き出しの中から小さな箱を取り出す
「ナナちゃん…」
呟きながらその箱を開ける
中にはあの思い出が詰まった…あの指輪…
だったはずだった
「え…?」
確かに指輪はある
でも指輪は僕のブルーのガラスの指輪だけ
ナナちゃんの指輪が……無い!!
「あ…あれ?え…?うそだ…!あれ!?」
僕は箱の中を何度も見る
無い!!ナナちゃんの指輪が無い!!
おかしい…!ナナちゃんが亡くなって…辛い思い出を思い出したくなかったから…あの後すぐにこの箱にしまったんだ!
あれ以来開けてないのに!
でも…すぐに僕は諦めがつく
「…忘れろ…って事…なのかな…」
何故無くなったのかは分からない…だけど、そんな気がした
その時、突然
(違うよ)
「え?」
僕は辺りを見回す
(忘れちゃダメだかんね?)
「な…え?」
耳に聞こえると言うよりは頭の中に響く感じ…
(もうすぐだからね…)
また聞こえた…!
いや…いやいや!寝ぼけてるんだ僕は…
朝起きたら部活もあるし、早く寝ないと…!
僕はベッドに入って目を閉じる
眠たいのもあってか、すぐに眠りへと落ちて行った…
「おはようございまーす」
翌朝、僕は通っている中学校のある部屋に入る
「おー!おはよ!レンジ君!」
部屋に先にいたのは部活の部長
前田マナミさん
ポニーテールを揺らしながら換気の為か、部室の窓を開けている
「部長…早いですね?僕も結構早く来たのに」
「ん?まぁ生徒会の方の用事もあったからね…どっこらせっと…!」
オバさんみたいな掛け声と共に部長は椅子に腰掛ける
部長はこの学校の生徒会長も務めている凄い人
何故だか部長に逆らう生徒はおろか、先生も頭が上がる人はいないんだ
それに、凄く美人でスタイルも良い…
生徒からは絶大な人気があるんだ
そして、部長はマコ姉ぇの後輩でもある
マコ姉ぇ曰く、
私の全てを注ぎ込んだ弟子、らしい
部長もマコ姉ぇの事を尊敬している
「あつ〜…午前中だってのにもう暑いわね…」
制服のブラウスのボタンを開け、下敷きでパタパタと扇ぐ部長
胸元…いや…下着が見えてるんだけど…
「レンジ君?私のチチそんなに見たいわけ?」
「え?あ…いや…分かってやってますよね?」
「まぁねぇ♪」
クスクスと笑う部長
「マナミ、レンジ君が困ってるでしょ?やめなさいよ…」
部室に入って来たのは、背の高いスラリとした女性
背中まであるロングの髪の毛が印象的な人
そしてなんだかいつも気高い雰囲気を醸し出してる…こう…宝塚みたいな先輩
喜多見ランという先輩
部長と同じく生徒会の書記長を務めている
「おー!ラン!コーラ買って来てくれた?」
「はいはい…まったく…朝からジュースのおつかいなんか頼んで来て…」
「さんくす♪」
喜多見先輩が部長にコーラを手渡す
それをカブ飲みする部長
「ぷはー!労働の後の炭酸はクセになるわ〜♪」
「…?何かやったの?」
喜多見先輩が部長に質問する
「ん?草取りよ…花壇が草ボーボーだったからね」
恐らく、部長は朝早くからやっていたんだ…
部長はそういう人
誰も見ていなくても努力を怠らない人なんだ
だから生徒会長でもあるんだ
「おはようございます」
続いて入って来たのは北条マイコちゃん
同学年で同じクラスの女の子
肩まであるちょっと癖っ毛の女の子
「ふぃー…暑いですねぇ…あ…レンジ君おはよ!」
ニコッと笑いかけてくるマイコちゃん
「さて…時間ね…始めるわよ!」
一堂、席について部活を開始する
「おはよ…ございます…」
その時、申し訳なさそうに部室に入ってきたのは
武田ノブアキ
マイコちゃんと同じ様にクラスメイトだ
「はいはい!遅刻遅刻!さっさと座りなさい!全く…君はなんでこう遅刻大魔王なのよ!」
「すみません…でも朝9時って早くないですか?」
「あたしゃ今日は6時に来て草取りしてんの…ぶっとばすわよ?」
「すみません…えへへ…♪」
「怒られてるのにニヤニヤしない!」
まったく…ノブアキは相変わらずだな…
そして、部活が始まる…
「さて!主要なメンバーが揃ったし、始めるわよ!」
部長が僕らに号令をかける
「主要って…これで全員ですよ?」
「まぁまぁ!その辺りは気にしないで!我が部は一応、強豪の部なんですから!」
そう、僕らの部活は市内や県内でも強豪…らしい
そして、一体どんな部活なのか
朗読部である
短編の小説や童話、絵本まで朗読する材料は多岐に渡る
まぁ…かなりマイナーなジャンルではあるし、実の所、市内や県内で朗読部があるのはウチだけ
でも、僕らの住むこの地域は昔から演劇が盛んな地域で演劇部はたくさんある
その演劇のコンクールに参加をして、毎回必ず入賞するんだ
「結果を残してるのはこの学校でウチだけだからね…だから強豪!分かった?」
部長がボールペンをふりふりしながら威張る
「まぁ会長として、他の部も結果は出して欲しいけどあれじゃあねぇ…」
グラウンドで汗を流す野球部
しかし、途中からサッカーやバスケをやり出す不真面目な姿を良く目にする
「あんなんだからウンコみたいな結果しか出せないのよ…毎回1回戦コールド負けよ?泣きたくなるわ」
「まぁまぁマナミ…愚痴らない愚痴らない…それに女の子なんだからウンコとか言わないの」
喜多見先輩が部長をなだめる
「そね…まぁこないだのコンクールも、見事に金賞だったし、みんなの実力も申し分無かったわ」
少し前に行われた、コンクールの総括を始める
「そして、分かってるわよね?次の舞台…」
「文化祭ね」
喜多見先輩が資料に目を通しながら発言する
「そう…コンクールなんかは目や耳の肥えた連中が見に来るのもあって、緊張はするけど、彼らは真面目に観覧してくれるわ」
喜多見先輩を始め、みんなは部長の話を真面目に聞く
「でも、今度は…まぁ、毎年やってるんだけど…身内が相手…しかも素人、中には私達を小馬鹿にしてる奴らもいるわ」
「そうね…」
喜多見先輩が同意する
「いや…私はね、身内で、小馬鹿にしてる奴らをアッと言わせたいの…」
「でも部長を馬鹿にしてる人なんてこの学校じゃそうそういませんよ?」
マイコちゃんが意見する…それに喜多見先輩が答える
「あのね、マイコ…マナミは馬鹿にされてなくっても、あなた達は違うわよ?」
「そう…どのみち、文化祭が終われば私とランは引退…そしてすぐに卒業…残されるのはあなた達3人なのよ?」
「はぁ…」
マイコちゃんが頷く
「どのみち、自慢じゃないけど今は私の威厳があるからこの部は存続出来てるみたいなもんよ?人数だけ言えば弱小…ギリギリな数なわけ」
「だから、生徒含め教師達にも私達の実力を見せつけなきゃダメなのよ…残されるあなた達の為にもね」
喜多見先輩が僕達2年を見つめる
「朗読部ここにありってやつを見せつけないとね!」.
部長がパシンとペンを手で叩く
「分かりました…」
僕達2年は同時に頷く
「で、早速なんだけど、文化祭で発表する題材…分かってるわよね?」
そう…朗読部の古くからのしきたり…文化祭の題材は部員達で全て創作する
「まぁ毎年これは頭を悩ませてるんだけど…それを皆で作りたい訳…私も作家じゃないし、難しいと思うわ…だから、参考になる題材は使用したいと思うの」
「だから各自、次の部活までに参考資料を持って来なさい」
喜多見先輩が補足する
「参考って…何でも良いんですか?」
ノブアキが質問する
「まぁね!エロ本とかエロ小説持って来たらぶっとばすけど」
参考資料か…探すのは図書館かなやっぱり
そして、部活はコンクールの細かい総括に入る…
2時間は経っただろうか…
「よし!今日は終わり!」
部長の号令と共に部活が終わる
「お疲れ座でした〜」
みんな、荷物をまとめて帰り支度をする
「レンジ!帰りにタコ焼き食おうぜ♪」
ノブアキが買い食いを誘ってくる
「やだよこの暑いのに…なんでそんな熱いの食べんのさ…」
「いいじゃんかよ〜」
「待ちなさいノブアキ君」
「は…はい?」
「君は居残り…まだお説教が残ってるのよ?」
部長がボールペンを教鞭の如くペシペシと叩き始め、遅刻のお説教が始まる
「君ね、普段の登校は無遅刻のクセに何で部活には遅刻すんの?」
さすが部長…ノブアキの普段の事まで把握をしてる…
「いや…えへへ♪」
「また笑う!何?君はマゾなの?」
…長くなりそうだ…
お昼食べれるかな?
そして、ノブアキは罰として部室を掃除する事に
しかも僕まで道連れに…
「ったく…なんで僕まで…」
「まぁまぁ!ジュースおごったじゃねぇか」
ノブアキがサラッと言う
「お昼食べそびれちゃったよ」
時刻は午後3時…
昼と言うよりはオヤツになってしまう
「てかさ、ノブ…最近ワザと遅刻してない?」
僕は彼をノブと呼ぶ
「…え?分かる?」
「ダメじゃんか…ワザとじゃ…」
「いや、だって部長に怒られたいし♪」
「…は?」
「いやー部長ってさ、脚綺麗だよなぁ…踏んでくんないかな?」
「ちょ…友達やめるよ?」
ノブは部長が好きなんだ…
でも、かなり屈折してると思う…うん
ちょっと気持ち悪い…
「レンジは好きな女子はいないのか?」
「……いないよ」
うん…いない…いなくなってしまったんだ…
ノブは中学からの友達だからナナちゃんの事は知らない
それに、なんの配慮か知らないけど、ナナちゃんが亡くなった事は公にはされてない…
小学校の中では転校という事になっている
事実を知るのは僕、マコ姉ぇ、施設の人や教師に限られる
そして、ノブとは別れてスーパーに買い物に向かう
蛍光灯やその他諸々買いに行くためだ
「おぉ…小麦粉とパン粉が特売だ!」
僕は目当ての蛍光灯をカゴに入れつつ、日曜雑貨を見て回る
「あ…レ〜ンジ君!」
肩をチョンチョンと指で突つかれる
「あ、マイコちゃん!」
「レンジ君も買い物?」
「うん!マイコちゃんもだね」
マイコちゃんも買い物カゴを持ってる…けど…中身を見て驚く
さきイカにビーフジャーキーに塩辛…?
「何?マイコちゃん晩酌するの?」
「あーこれ?えっと…お姉ちゃんにおつまみ頼まれてさ…買うの恥ずかしいのよね結構…」
お姉ちゃんがいるのか…
「酒豪でヘビースモーカーなのよ…まぁタバコとお酒はお姉ちゃんが買うけどね」
「ふーん…」
そういえばマイコちゃん学校でタバコ臭いって先生に疑われた事あったな…だからか…
「レンジ君は…今日は揚げ物かな?」
僕のカゴの中身をみるマイコちゃん
まぁ小麦粉とかパン粉が入ってるからな
「いや、今日は昨日のカレーの残りだよ…ノブのせいでお昼食べそびれちゃってさ…お腹空いたよ…」
「あーノブアキ君ねぇ…」
マイコちゃんもノブが部長が好きなのは知ってる
「怒られたいらしいよアイツ…」
「うげ…ちょっとキモいわ…」
そして僕らは買い物を済ませてスーパーの駐車場で軽く話す
「レンジ君ってさ…お父さん確か単身赴任なんだよね?」
「うん…まぁ近くに親戚がいるけどね」
「へぇ…料理とか掃除とか、自分でやってるんだ?」
「うん…まぁ料理は嫌いじゃないし、楽しいしね♪」
「そっか…凄いねぇ…今度さ…私に料理教えてくれない?」
「え…?別に構わないけど…」
何故か料理を教えてと頼んでくるマイコちゃん
(そろそろツバつけとかないと…)
「え?何か言った?」
「あ…ううん!何でもないわ!じゃあまた部活でね♪」
僕らは別れを告げ、お互いに家路につく…
はぁ…お腹減ったなぁ…
ゆっくりと家を目指す
買い物袋のワシャワシャとした音が鳴り響く
既に夕方…陽が落ちかけて、カナカナとヒグラシが優しく合唱をする
今は昼間と比べてかなり涼しくなってきた
やんわりと吹く風が凄く気持ち良い…
何だか気分が良いので散歩がてら遠回りをする
「〜♪〜♪」
小さく鼻歌を歌いながら僕は歩く
いつの間にか僕は川沿いを歩いていた
「…あれ…?」
僕の目にある建物が飛び込んでくる
「…なんでかな…無意識に来ちゃったよ…」
川沿いにある、幼稚園みたいな建物…
[たいようの家]
ナナちゃんが育った施設だ
ナナちゃんが生きてた頃は良く来てたな…
まぁ…もう用事は無いよな…
僕は足早にそこを立ち去ろうと歩みを進める
すると、突然夏とは思えない冷たい風が僕の体を貫く
背中がゾクリとする
そして気がつくと前方に誰かいる…
小さな女の子だ…白いワンピースを着て、髪の毛は肩まで伸ばしてる…
…幽霊みたいな感じがして…ちょっと怖い…
彼女もこちらに歩いてくる
そして、お互いにすれ違う
別に知り合いじゃない
だけど…なんだか凄く気になって振り返ってみる
すると彼女も振り返っていた
気まずくなって慌てて前を向く
何だろう…こんな感覚初めてだ…
首をかしげてると後ろから可愛らしい声がする
「見つけた」
…?
「見つけた…やっと見つけた…やっと…!」
後ろを振り向くと…こちらに走ってくる女の子…!
いや…!突進と言う言葉が正しい…!
「見つけたああああ!」
物凄い形相で叫びながら突進してくる彼女
「うわっ!」
僕は訳が分からなくて…それに凄く恐怖を感じて慌てて逃げ出す
「な…!何で逃げんのよ!待ちなさいよコルァアアアア!」
イヤだ!なんで僕が追われなきゃいけないんだ!
僕は全速力でダッシュする
「止まりなさいよおぉお!ムキーイイ!」
何か変な声を上げてる…
しかし、あの女の子は背が低い
対する僕は身長が173はある
脚のリーチはこちらが有利だし、徒競走なら少し自信はある
次第に彼女との距離が離れる
「ち…なさいよ…!てぇぇ!」
声も段々と遠くなってゆく…
そして、完全に彼女を撒いた…
「はぁ!はぁ!はぁ!ぜぇ…ぜぇ!…んぐ…!」
こんなに全力で走ったのは生まれて初めてかもしれない…
でも、休んでる間は無い…早く彼女に見つからないうちに帰らないと…!
僕は急いで家に向かう
そして、家に入る
走ったせいで喉がカラカラで張り付いた感覚だ
冷蔵庫を開けて麦茶をカブ飲みする
「ぷ…はぁ…!」
冷えた麦茶が体の中に染み渡る様だ
「な…なんだったんだ…?」
僕は女の子に追いかけられる覚えは無い
恨みを買う様な事なんかした事無いし…
大体、女の子となんか付き合った事も無いしな…
「まあ…暑いしな…頭がおかしい人がいても…おかしくないか…」
僕は無理矢理結論づけて呟く
「誰が頭がおかしいって?」
……う…後ろから…声…?
いや…そんなはず…
「後ろ…向きなさいよ…」
ま…また声が…!
僕はゆっくりと振り向く…でも、誰もいない…
「あーもうちょい下向いてみ?」
言われるままに下に視線を落とす
すると…さっきの女の子が!
「…!!」
僕は驚きすぎて声が出ない
「アンタ…背ぇ伸びたわねぇ…」
彼女は僕を見上げながら何故か僕の身長を感心する
そして僕は腰が抜けてしまってペチャンと崩れてしまう
「な…な!何で…!撒いたのに!?」
「フフン…あれで私を撒いたとでも?」
崩れ落ちた僕を見下ろして威張る彼女
「どど…!どうして!家に…入って来て…る…の?」
「別に、アンタの家分かってるしねぇ…途中から先回りして、隠れててアンタが帰って来たから真後ろにくっついて入っただけよ」
「な…ウチを…知ってる…?」
な…何でウチを知ってるんだ…?
すると彼女は呆れた様子で
「アンタ…まさか…まだ分かんない訳?」
彼女は僕の顔にズズイっと自分の顔を寄せる
「な…わ…分からないよ!」
僕が半ば絶叫気味で、叫ぶと彼女は左手を見せてくる
「…?な…何?」
「良く見なさいよ!」
彼女の左手をよく見る
すると彼女の薬指にはキラリと光る指輪
ゆび…指輪…
こ…この指輪は!!!
「な…ナナちゃんの…!!」
「ようやく分かったかしら?」
「き…君が泥棒した…のか…?」
「は?」
彼女は口をアングリさせる
「か…返してよ!僕の宝物なんだ!」
「ちょ…あ…アンタ…まだ分かんない訳?」
「分かるよ…!君が盗んだんだろ!返してよ!」
「やーよ!大体、そんなヘッピリ腰で言われたって迫力もクソもないしね♪」
な…何おう…!
「それに……これは私の指輪なのよ?」
「な…え…?」
盗人猛々しい発言をする彼女
しかし…彼女の口からはとんでもない事が飛び出す
「アンタが…レンジが私にくれたんだもん…」
「え?」
僕の名前を…知ってる?
「だから……私が、返してもらったのよ…?」
あり得ない言葉が耳を貫く
「な…ちょ…!冗談は…」
「冗談じゃないわよ?」
「君が…君がナナちゃんだって言うのか…!?」
「そう…私は桜川ナナよ…アンタの幼馴染の…」
「う…嘘だ…な…ナナちゃんは…死んだはず…」
しかし、彼女は冷静に答える
「うん…死んだわね」
「…?…!?…?」
だ…ダメだ…頭がパニック状態に陥る
「私はね…生き返ったのよ」
生き返った…あり得ない言葉が僕を襲う
「生き返った?」
「そう!私はリバース!つまり復活したってわけよ!」
何だかよく分からない変なポーズを取る…ナナちゃんと名乗る彼女
いや…そんな…生き返るなんて…
僕はナナちゃんのお骨を拾ったのを覚えてる
つまり、ナナちゃんは火葬されたんだ…
今でもはっきり覚えてる…
「そ…そんな…え…?ちょ…!幽霊?いや…ゾンビ?」
「何でこんな可愛い幽霊とかゾンビがいんのよ!!」
自分で自分を可愛いって…でも、あり得ない事実に僕は驚きを隠せない
「そんな…お盆にはお線香あげてたのに…命日だって!」
「あのね…」
彼女はしゃがみ、そして僕の手を握る
「え…」
暖かい…彼女の手からは正に、人間そのものの体温を感じる
「どう?ちょっとは信じれる?」
「……」
僕は何故だか無言で頷いてしまった
しかし、言葉が出ない
すると彼女は業を煮やしたのか
「あーもう!めんどくさいわね!良い加減納得しなさいよ!アンタ男の子でしょ!」
「あ…うん…!!」
「フフン…わかればよろしい!」
満足気な彼女…いや、ナナちゃんと呼ぶべきか
「つーか暑いわ…アンタのせいで全速力で走ったし…あ、麦茶ちょーだい♪」
ナナちゃんは麦茶をゴクゴクとカブ飲みする
「はぁ♪美味しー!生き返ったわ!…いや、既に生き返ってるわね!アッハハ♪」
ケラケラと笑うナナちゃん
「ま…まぁナナちゃんって言うのは…一応理解したんだけどさ…ど…どうして生き返ったの?」
「はぁ?アンタ忘れたの?約束したじゃんよ…またお祭り行くって…一緒に」
「え…あ…それだけで?」
「そーよ!義理堅いのよ私は」
そしてナナちゃんはまた麦茶を飲む
「いや…でも…ナナちゃん…また施設に住むの?」
そう…ナナちゃんには親はいない
つまり、家が無いんだ
一体どうするんだ?
「施設は行かないわよ?」
「え…?」
「おっ世話になります♪」
ペコリとお辞儀をするナナちゃん
「お世話に…?お世話?…え…えぇえええええ!?」
つまり、…この家に…住むつもりか!?
「ダメ?」
眉毛を8の字にするナナちゃん
なんだか今にも泣きそうだ
「私、親いないし、頼れるの…レンジしかいないの…レンジがダメなら野宿するしかないの…クスン」
「いや!ダメじゃないよ!うんダメじゃない!」
女の子を野宿させるわけにはいかない…それもあってか全力で了解してしまう僕
「じゃあ決まりね♪よろしく〜!」
にぱっと笑うナナちゃん…切り替えが早すぎる…
「つーか汗もかいたし、シャワー入っていい?」
「あ…うん…どうぞ…タイマーでもう出来てるはずだから…」
「よっしゃー!久しぶりのお風呂だわ!」
もはやナナちゃんのペースだった
「レンジも汗すごいねぇ…めんどくさいから一緒に入る?」
「は?うえ?…いや!ダメだよ!」
とんでもない事を言うナナちゃん
「冗談よ♪まぁ昔は一緒に入ったけどね…さすがに今は恥じらいがあるわ」
じ、冗談か…
確かに昔は一緒に入ったよな…まぁホント小さい時だけど…
そして、ナナちゃんがシャワーに入る
リビングに取り残される僕
しかし…生き返る事なんてあるのか?
僕があれこれて考えてるとナナちゃんがシャワーから上がってくる
しかし…何故かバスタオル姿
目のやり場に困ってしまう…
「いや…私さ…良く考えたら着替え持ってないんだよね…良かったらTシャツと短パンとか貸してくれない?」
「あ…うん!良いよ!えと…その…し…下着は?」
「今日はとりあえず今日着てるので我慢するわ…明日諸々買いに行くし」
そして、急いで洗濯済みの着替えを出す
ナナちゃんはTシャツを広げると
「デカ!アンタ身長いくつ?」
「んと…173だよ…ナナちゃんは?」
「143よ」
143…僕と30センチ違うじゃないか…
「アンタ今チビとか思ったでしょ?」
「いや…ナナちゃん小学校から背はそんなに大きくなかったし…」
「ま、私は可愛いからね〜小さいのも許されちゃうわ!」
ポジティブだな…
確かにナナちゃんは背が低い…
それに、なんと言うか…胸が…
とても残念というか…
貧乳…いや、それ以下かも…
「何ジロジロ見てんのよ?」
「あ…いや…ごめん…」
でも、顔はすっごく可愛いんだ…
それに、改めて見ると確かにナナちゃんの面影がある…
というか…死んでからも成長するんだな…
「つーか後ろ向いててよ…着替えるし」
「.あ…あ!ごめん!」
僕は慌てて後ろを向く
「〜♪〜♪」
モゾモゾと着替える音がする…
つまり、今はナナちゃんは裸…
う…振り向きたい…
「振り向いたらビンタよ?」
「…!」
こ…こちらの頭の中が読めるのか?
「はーい!着替えたわよ!」
振り向くと、ブカブカのTシャツに短パン姿のナナちゃん
「つーかまじでデカイわ…まぁ良いか!」
襟がスカスカだからか、胸の先っちょが見えそうで困る…
そして、僕もシャワーを浴びる
湯船に浸かって再度考える…
でも、考えても、ラチがあかない…
まぁ…考えても仕方無いか…
僕は湯船から上がって、リビングに戻る…
シャワーから上がるとナナちゃんはリビングのソファでくつろいでいた
テレビを見て、ケラケラと笑ってる
…馴染みすぎだろう…
「あ、お風呂から出たの?」
「うん…」
そういえばお昼食べてないからお腹空いたな…
「ナナちゃん、何か食べる?」
「え?うん!食べる食べる!」
カレーが残ってるけど…そういえばマコ姉ぇにご飯結構食べられちゃって2人分は無いんだよな…
「やきそばで良いかな?」
「やきそば?食べる食べる!私やきそば好きなんだよねぇ!」
それは良かった…
早速、支度に取り掛かる
「…ペヤングじゃないの?」
「いや…ちゃんと作るんだよ♪」
僕はモヤシとか野菜…イカのリングを入れて料理する
「アンタ…凄いね…」
料理をする僕を見ながらナナちゃんは感心する
「そう?焼いてるだけだよ?」
「まぁ…アンタ家のお手伝い良くやってたしね…」
そして、やきそばが完成する
「いっただきまーす!」
ナナちゃんはやきそばを頬張る
「あむあむ…美味しーわ♪」
そりゃ良かった…♪
「けどさ、アンタ何で昼間家に居なかったの?」
「ん?部活行ってたんだ…それと買い物…ていうか…昼間来てたの?」
「うん…朝に正式にこっちの世界に生き返ったから真っ先に来たのにいないんだもん」
少し膨れるナナちゃん
「なんかごめん…じゃあ昼間どうしてたの?」.
「アンタを探し回ってたわ…でも、暑いからコンビニとか、図書館に避難してたけど」
かわいそうな事したな…
「おいひー♪」
続けてやきそばにパクつくナナちゃん
するとある事に気が付く
左手でお箸を持ってる…
そう…ナナちゃんはご飯は左利きだったんだ
「やっぱり…ナナちゃん…だ…」
「んあ!?あんひゃはひひっへんにょ?」
「ちゃんと飲み込んでから喋りなよ…」
「ゴク…アンタ何言ってんの?」
「いや…ナナちゃん左利きだったし…」
「まぁだ信じてなかったわけ?…おりゃ!」
.ナナちゃんが僕のほっぺを抓る
「いひゃいいひゃい!本気でやらないで〜!」
「ンフフ〜♪夢じゃないでしょ?」
「うん…痛かった…」
ナナちゃんは満足そうだ
「でもナナちゃんさ、どうやって生き返ったの?」
「ん?まぁ…確かにアンタは疑問よねぇ」
「うん…ドラクエみたいな話だし」
ナナちゃんが詳しく説明を始める
「私さ、死んだ後…死者の世界にいたの…」
死者?
「うん…まぁなんつーか…こっちの世界とはあんまり変わんないんだけどさ…気がついたらいたの」
ナナちゃんは麦茶をコップに注ぐ
「でも、誰もいないし、どこに行けば良いかもわかんなくってさ…泣いちゃったのよね…」
まぁ確かに…泣くよな普通…
「さっき、こっちの世界とあまり変わらないって言ったけど、決定的な違いがあるの」
「違い?」
「うん…時間の概念が無いのよ」
時間…でも想像がつかない…
「だから、どんだけ泣いたかも分かんなくてさ…でも、しばらく経ってからある人が来たの」
人?幽霊じゃなくて?
「うん…まぁその人にお世話になるんだけどね…エリさんっていうお姉さんだったわ」
「へぇ…」
「エリさんは私に言ったの…あなたの願い、叶えてあげるって」
「願い?」
ナナちゃんの願い…一体何なんだろう…
「私の願いはただ一つ…生き返る事だったわ」
だから…生き返ったのか…
「でもね、簡単に生き返るなんておいしー話無いわけでさ、修行したのよね」
「修行?」
「そ!生き返る為には厳しい修行が必要なの…その修行をエリさんに受けて…んで、修行が終わってこっちに戻ってきたってわけよ!」
そうか…大体は分かった…でも、1つ疑問がある
「住民票とかどうするの?」
「じゅ?住民票…?アンタまたいきなり現実的な…でも大丈夫よ!その辺りは手はずは済んでるから」
「手はず?」
「そ!私が生き返っても問題無い様に用意はしてあんのよ」
「へぇ…じゃあウチに住むのも?」
「もち!」
…便利なんだな…
「アンタのお父さんも、桜川ナナって言う私にそっくり、同性同名の女の子を引き取るようになってるのよ」
「そうだったんだ…」
「ごちそー様ぁ!あーお腹いっぱいだわ!」
ナナちゃんはお腹をさする
「そういえば…部屋はどうしよう…一応僕の隣の部屋が空いてるけど」
「うん…それで構わないわ…まぁ私はアンタと一緒でも良いけど」
いや…それはダメだろう…
僕はナナちゃんの部屋となる場所に案内する
ちょうど都合良く、パイプベッドが1つ余っていたのでそれに布団を敷く
「ここがこれから私の寝床になるのねぇ♪」
「うん…せまいけど我慢してね…」
「ありがと!」
ナナちゃんはニッコリ笑って僕にお礼をする
…可愛い…!
やっぱり…ナナちゃん…可愛いな…
ドキドキしてしまう…
そして、僕らはすぐに寝ないでまたリビングに戻る
だって…また再会出来たんだ…
話す事は山の様にある
昔の思い出話とかたくさん…
「アンタそういえばおでこにキズあるわよね?もうほとんど消えてるけど」
「ん?あぁ…そういえばそうだね…でも良く覚えてるね?」
「まぁね!確かブランコから落ちたのよね?」
「あー…そういえばそうだ…」
確かに小学校1年の頃ブランコから落ちたな…
いや、待てよ?
「それってナナちゃんが後ろからドロップキックしたからだよね?」
「…そうだったっけ?」
…重要な事覚えてないな…
しばらくすると、ナナちゃんは写真立てに気が付く
戸棚の上に飾ってたやつだ
マジマジと写真を見る
「あ…それ部活のコンクールの時の写真なんだ…受賞した記念にみんなで撮ったんだ」
しかし、ナナちゃんは低い声で僕に語りかけてくる
「…アンタ…まさか彼女とかいない…わよね?」
「へ?」
「だって…女の子ばっかりじゃん…」
明らかに顔が不満気になるナナちゃん
「い…いや!いないよ!みんなクラスメイトとか先輩だよ!」
「…いないなら良いけど…つーか女の子みんな可愛いわね…」
「ん?あぁ確かにみんな評判良いけど…」
——ドン!
ナナちゃんが写真立てを強めに置く
「だからこの部活に入ったってわけ?」
「へ?いや…そんなわけないじゃんよ!」
「どーだか!このエロレンジ!」
な…なんでエロ呼ばわりされなきゃならないんだ…
「それに、僕が彼女いる様に見える?」
「…まぁ…そうよね…」
…そこはアッサリ納得しないでほしいんだけど…
「ま!良いわ!明日さ、色々服とか買いたいし、買い物行こうよ!一緒に!」.
「別に構わないけど…あっ!ちょっと待って…僕は冷蔵庫にある予定表を見に行く
明日の午前中はノブと図書館に行く約束してたんだ…部活の資料集めで
「明日さ、午後からで良い?部活の友達と約束があってさ…」
するとまたナナちゃんは不機嫌になる
「…誰よ?どの女の子よ?」
写真を見ながら僕に質問する
「へ?あ…いや!コイツだよ!」
僕は左端に写ってるノブを指差す
「男の子か…」
「うん!コイツとは仲良くってさ…コイツと資料集めしなきゃダメなんだ!」
「ふーん…なんかコイツキモいわね…」
写真だけでキモいと判断されるノブ
かわいそうに…
「コイツに任せちゃダメなの?」
更に酷い扱いを受けるノブ
「いや…コイツ…ノブは結構良い加減なヤツだから…きちんとした資料集めないと部長に怒られるんだ…」
アイツなら怒られるのが目的で本当にエロ本を持って行きかねない
「そうか…怒られちゃうのか…じゃあ仕方無いわね…」
何とか納得してくれたナナちゃん
「さて…もう時間も時間だし、寝る?」
時刻は既に夜の11時…
「そうね…ふぁ…!私も歩き回って疲れたし…
そして…僕達はお互いの部屋で床につく…
あり得ない事が現実に起きた…
ナナちゃんが生き返った
初恋の人だった、ナナちゃん
僕は願う…
この事実が…夢でないようにと…
僕はそう願いながら眠りに落ちていった…
私はレンジが用意してくれたベッドに座る
まだ、興奮して寝れない…
部屋は2階…私は窓を開ける
月明かりがやんわりと私を照らす
…やっと会えた…やっと!
レンジに会えた!もう嬉しくってたまらない…!
だって…初恋の人だもん…
まぁレンジの方はわかんないけど…
でも、私の指輪を…宝物って言ってたし…
脈はあるわよね?
それにしても…何とか無事にレンジの家に入り込めた…
まぁかなり強引ではあったけどね
レンジもとりあえず納得はしたし…
後は…上手くやらないと…!
でも…厳しい修行を耐え抜いた甲斐があった…
…ホント…厳しかったわ…エリさん…
でも、実のところ、生き返るのには修行なんかいらない
レンジには嘘をつく格好になっちゃったけど…本当の事はまだ言えない
私は、ある取引をしたんだ
ある任務を遂行する引き換えに、生き返るのと、レンジと会う事を許された
任務…それは世界の秩序を守る大切な任務
正直、私は迷った
来世で再びレンジと会うチャンスを待つ、と言う選択肢もあった
でも…イヤだった
レンジが他の女の子と…イチャイチャしたり、結婚して幸せな家庭を築いたりとか…
そんなの見たくない!
それに、私は今のレンジが好きなんだ
迷ったけど…私の答えは1つだった
それに、任務をきちんと…全て遂行したら、私にはご褒美が待ってる
だから…私は蘇る事を選んだ
私は窓を閉めてベッドに戻る
私は横になり、目を閉じる…
静かに決意をしながら…
——そして翌朝——
目を覚まして下に降りる
ん?良い匂いがするわ…
「あ、起きた?もう出来るから待ってて!顔洗って来なよ!」
レンジが朝ごはんを作っていた…
エプロンまでしちゃって…まぁ似合ってるけど♪
そして、私達は朝ごはんを食べる
ご飯とお味噌汁はもちろん、シャケの塩焼きに卵焼き…ほうれん草のお浸しにキュウリのお漬物…ついでに納豆…
まさにザ、朝ごはんって感じだ
「アンタ…昨日もそうだけどホントすごいわね…主婦みたいね」
「へへ♪料理は好きだからさ!」
レンジは嬉しそうに答える
私達はお箸を進める
「あ、昨日言い忘れたけど夏休み明けたら同じ中学通うからね?一応転校生って事で」
「まぁそうなるよね…中学は通わないとね」
レンジは慣れたのか、アッサリ納得する
「さて…」
ご飯を食べ終わり、レンジが出掛ける準備を始める
「じゃあさ、昼には帰ってくるから…それまでテレビでも見ててよ!」
そう…レンジは部活の友達…なんかキモいヤツと図書館に行くんだ
「早く帰って来なさいよ〜」
そして、私1人家に取り残される
まだ生き返って間も無いからレンジがいないと何も出来ないわ
私はテレビをつける
昨日も見たけど芸能人…どれもやっぱり老けたわ…
つーか平日の朝だからワイドショーしかやってないわ
私はチャンネルを変えまくる
「…アニメもやってないわ…」
テレビを消して私は意味も無くゴロゴロする
「ゴロンゴロン♪」
って口に出してみるけど…
楽しくないわ…
んー…どうしよ…私はキッチンに入りゴソゴソと棚を漁る
「オヤツ無いかしら?…クッキーとか無いかなー」
そんな事をしてると家のチャイムが鳴る
だ…誰か来た!
どうしよう…まだ私来たばかりだし…
でも、出ないわけにはいかないわ…
意を決して、応対する事を決める
「は…はい…どちら様ですか?」
玄関のドア越しに恐る恐る応対する私
「何怯えてるの?私よ…容姿端麗、頭脳明晰のお姉様、エリさんよ♪」
エリさんだ!
なんか余計な事を言ってるけど…
私は急いでドアを開ける
「ふむ…どうやらちゃんと潜り込めたみたいね」
「いや…潜り込むって泥棒じゃないんだから…」
エリさん…
死んだ後の世界で私をお世話してくれた人
そして、私の上司でもある
顔はこう…一見冷たそうな印象があるんだけど凄く綺麗な顔立ちで…モデルみたいな体型の人
さっき、自分で言ってたけど、頭脳明晰…頭も良いんだ
でもユーモアのある人でもある
大人の余裕ってやつだろうか…
エリさんは後ろで束ねた髪の毛を揺らしながら家に入る
「ま、後はあなたの好きな様にやりなさい…」
「うん…」
「でも、きちんと任務はこなしなさいよ?」
「うん…!分かってる…」
私は頷く
「あ、だけど生命の秩序を乱す行為は厳禁よ?その辺りはもう一度手帳の禁止要綱を読んでおきなさい」
「うん…でもエリさん、それを良いに来たの?」
エリさんはニコッと笑いながら
「まぁそれもあるけどね…様子を見に来たのよ♪あなたの同棲生活をね」
「同棲生活って…えへへ♪」
照れちゃうな…同棲生活…か…
「つーかさ、あの男の子…坂崎レンジだっけ?あんなのが良いの?」
「あんなのって…」
「さっき様子見てきたけど、あれ絶対童貞よ?」
「いや…そんなボロクソ言わなくても…それに…えと…童貞じゃなきゃ私困るんだけど」
「ふーん…初物が良いってわけか♪」
ニヤニヤ笑うエリさん
「で?告白したの?」
「は?いや…だって昨日来たばっかりだよ?」
エリさんはつまらなそうに
「なーんだ…私はてっきり感動の再会、告白、チュー、アッハンウッフンしたのかと思ったわ」
「あのね…」
なんつー事言い出すんだ…
「ま、冗談はさておいて、坂崎レンジを彼氏にしたいんでしょ?」
「う…うん…」
「まぁ私はそのあたりは何も言わないけど、さっさと彼氏にしちゃいなさいよ?」
「ま…まぁ焦らずにやるよ…」
するとエリさんは腕を組み
「焦らずに…か…一応私、彼の事リサーチしてるんだけどね…学校じゃ人気あるみたいよ?」
「え?ま…マヂで…?」
「本人は自覚してないと思うけど、背が高くって、お料理が天才的ってのが密かに人気らしいわ」
…おちおちしてられないな…
「ま、参考までに教えてあげただけよ…じゃ、頑張りなさいね?」
そしてエリさんは帰っていく…
レンジ…人気高いのか…
私は玄関の前で立ったまま考える
するとまたチャイムが鳴る
ん?エリさんかしら?何か言い忘れたのかな?
私はすぐさまドアを開ける
「おりょ?」
「…!!」
ドアを開けると、そこには見知らぬ女子高生…
「おりょりょ?レンジ君の家よね…うん…間違いないわ」
ま…まずい!ど…どうしよ…あれ?
この女子高生って…
マコちゃんだ!
私とレンジ君を可愛がってくれたマコちゃんだ!
「…君…レンジ君のお友達かしら?」
マコちゃんは不思議そうに私を見つめる
「え…あ…いや!」
「ん…?君…どっかで会った事ある?」
「えとえと…!」
どうしよう…!なんて説明をしたら…
「なぁんか…君懐かしいのよねぇ…そーだ!昔君に似てる女の子のお友達がいてさ…ナナちゃんって言ってね」
うぅ…!なんでこんなに鋭いんだ!
「レンジ君と仲良くてさぁ〜…」
マコちゃんは私に構わず語り始める
うぅ…もうこの際だ…白状するしかないよな…
「あ…いや…私、本人です」
「は?」
「桜川ナナです…」
「うそ!やっだ!ナナちゃんなの?」
あ…あれ?な…なんか普通に納得してる感じが…
しかし
「お盆も近いねぇ…ってそんな訳無いでしょ!」
「ひぃ!!」
「うそ!やだ!レンジ君と一緒にお線香あげたのに!えーと…南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経!」
手を合わせ、私に祈り始めるマコちゃん
「ちょ…落ち着いてマコちゃん…」
私は事情を説明する