「いらっしゃいませ!」


「はい、ご注文以上でよろしいでしょうか??」


「これテーブル持って行って」


「200円のおつりです、ありがとうございました!」


お客さんの話し声や私達従業員の声で騒がしい店内。

お正月である今日1月1日から、松岡家の家業である定食屋は大賑わい。

まだ朝だっていうのに、すでにお酒が並び、奥の方は宴会状態。

父さんと弟の成海が料理を作り、母さんと私でそれを配膳したりお客さんの接客をしている。

わざわざ私が年末から実家に帰ってきたのは、このため。

店を回すのに一人でも数が多い方がいい。

だから必ず年末年始とか、お客さんが多くなるときには家に帰るようにしている。

予想通り、今年も帰ってきて正解。

今でも結構ギリギリな状態だから、これで私がいなければ絶対間に合わないと思う。


「右京ちゃんちょっとこっちおいでよ」


「一緒に飲もうよ」


そんなことを思いながら動いていると、奥で宴会をしている常連さんが私に声をかけてきた。

もうすでに結構飲んでるみたいで、陽気な口調で楽しそう。


「はいはい、忙しい店員に絡まない」


でもそれを私は笑って受け流す。


「ちぇー、右京ちゃん厳しいー」


「あっはっはっ、それじゃあお年玉をあげようね、成海君にも渡してあげてよ」


私の返答に、お客さんはわざとらしく肩を落としたふりをしてまた楽しそうに笑う。

そんな中、やっぱり毎年お年玉をくれるお客さんがいて、今年もまたぽち袋を二つ手渡してくる。


「私もう成人してますよ、それにお客さんからお金取るのは支払いのときだけです」


「おっちゃんの楽しみなんて、こうしてお年玉あげるくらいしかないんだよ。それに、成人してても、右京ちゃんも成海君もいつまでもおっちゃん達から見たら子供さ」


何度断っても、こうして無理矢理押し付けるようにお年玉を渡してくれる。

もう成人して働いているのに、今もお客さんにとったら子供なんて、それじゃあ私はいつになったら大人になるんだか。

押し問答の末、今年も負け、有り難くそれを受け取る。


「成海、今年もくれたよ」


少しお客さんが減って余裕ができたとき、成海にさっき渡されたばかりのぽち袋を渡す。


「ホントだ〜、あの人いつまで俺達のこと子供だと思ってるんだろう〜」


無駄に高い身長で私を見下ろしながら、間の抜けたようなヘラヘラとした話し方で笑う。

あんたはまだ高校生だから子供でいいけど、私なんてもう成人して働いているのよ??

そんなことを思いながら、その笑顔に私も苦笑いを返す。

すると、ふと何かを思い出したように、成海が“そういえば”と口を開いた。


「宗佑さん帰ってきてるのに姉さん会いに行かないの〜??」


「っ!!、成海っあんたっ!!」


「姉さん恋する乙女〜!、あっ俺このお礼言いに行ってくるから〜」


その名前に一気に顔が熱くなるのがわかり、それを見てニヤニヤと成海が笑う。

ムカついて一発殴ろうかと思ったけど、その前にさっさと逃げられた。


「会いに行かないの〜、なんて、成海全然わかってないわね」


「あのニヤニヤ笑った顔、全然知らないみたいだ」


追いかけようとしたとき、それを遮るように、母さんと父さんの笑い声が聞こえた。


「……何が??」


“白状ね、成海”なんて私に同意を求めてくるものだから、どういうことかと聞き返す。

すると……。


「あら、だって昨日、本当なら宗佑君のところに行くはずだったでしょ??」


「でも成海を初詣に行かせたから、代わりに自分が店に残った、だから宗佑君のところに行けなかったんだろ??」


「友達と楽しそうにしてる成海が見たかったのよね??」


「弟思いのいいお姉ちゃんだ」


「っ!!?……、ちっ違う!!、成海のためなんかじゃないっ!!」


「はいはい」


「ほっ本当よっ!!」


「はいはい」


何を言っても適当に交わされる。

しかもニコニコ嬉しそうな笑顔で。


「あーもうっ!!」


成海のせいよっ!!

さっきのことも含めて覚えておきなさいっ成海っ!!