「若、隣町の組が挨拶に来ています」
「若に頂き物です」
「若」
「うるせー、お前達で対処しとけ。それから走るな、騒がしいしむさ苦しい」
元旦の朝、大の大人の男達がバタバタと騒がしく家の中を駆け回る。
その音に、昨日飲んだ酒が抜けきっていない頭はガンガンと殴られているような痛みが響く。
それなのに、そのついでに男達が俺の名前を呼んで傍に来る、その騒がしい声とむさ苦しい状況に、余計に頭が痛くなる。
「しかし若……」
「うるせーって言ってんのが、聞こえねーのか??……」
なおも喰い下ってくる男にゆっくりとそう言い、横目で睨むと、男達は黙って頭を下げて去って行った。
「はぁー……」
悪かったとは思う。
何せ俺はここ、荒川組の若頭、いつかはここを継ぐ存在。
なのに正月で挨拶回りに来たやつに顔を出さず、他の組からの貰い物の礼もしていない。
正直、若頭としての仕事をまだ何もしていない。
でも、昨日夜中まで親父や組のやつ達に付き合って酒盛りをしてやったんだから、ちょっとの間休むくらい許してほしい。
何せ今年は去年とは違い、涼桔が家にいなかったからな、絡まれるのは全部俺にだ。
「まあ……そうならないようにしたからなんだけどな……」
昨日の夜、涼桔を初詣に向かわせたのは、あいつを酒盛りをしている場所にいさせないようにするため。
昔から、家柄的に宴会や何やらで大人達が酒を飲む機会がたくさんあった。
そんなとき、子供がいたら、おっさん達はなぜか子供に絡みたがる。
荒川組の頭の子供である俺と涼桔は、その場にいる唯一の子供だったため、幼い頃から絡まれていた。
だいたい酒を飲まされたり、何歳なのかとか好きなものは何だとかしょうもない質問をいくつもされたり、デカい瓶を持つのが可愛いと思ったからか一升瓶を持たせて酌をさせたり……。
殴られるとかそういう絡みではなく、可愛がられていた感じではあったが、要するにウザ絡みだ。
それが当たり前になって、おかげでいつの間にか酒に強くなっている。
そういや、俺は大分早い段階で酒を飲まされていることに気付いていたが、涼桔は未だに自分が飲まされているものが酒だとは思っていない。
「坊ちゃん、これ海外から取り寄せたジュースですよ」
「坊ちゃんこのジュース美味いから飲んでみてくださいよ」
そんなことを冗談で言って酒を勧められていることに、涼桔は気付いていない。
天然といえばそうなんだが、涼桔が気付かない理由、それは組のやつ達のことを本当の家族のように思い、何でも信用しているから。
組の息子として、大丈夫なのかと思うところが涼桔には多々ある。
でも……。
「兄さん大丈夫??」
「ん??……、ああ、涼桔……」
寝転がる俺の頭上から聞こえた声に目を開けると、立ったまま俺を見下ろす弟の姿。
「顔色悪いよ、水でも持って来ようか??」
「あー、いい、大したことない」
心配そうに声をかけて、そのまま水を取りに行こうとした涼桔。
俺はその足を掴んで引き止める。
「それより涼桔、昨日は楽しかったか??」
開いた口は何か言いたげにしていたが、何かを言われるより先に、俺は質問をする。
「うん!すごく楽しかったよ!、ぼく友達と一緒に初詣行くなんて初めてだったから、テンション上がっちゃったよ」
すると、涼桔の表情が明るくなり、昨日の話をしてくれる。
いつもは聞かないような声のトーンと、いつもより少しデカイ声に、本当に楽しかったんだとわかる。
よかった、楽しんだようで。
昔、家業のせいで友達ができなかった弟。
俺は友達とかそういうのに興味がなかったから構わなかったが、バカみたいに優しい弟に友達ができなくて、そのことで落ち込んでいる姿を見るのが嫌だった。
笑っていてほしいのに、昔のこいつは全然笑わなかった。
でも今は、ちゃんと涼桔のことをわかってくれる仲間ができ、楽しそうだ。
高校生らしい、純粋な笑顔。
それを俺には作ることはできない、だからせめて、それを作れるやつ達のところへ行くようにと見送る。
昨日、涼桔を初詣に見送ったのも同じだ。
酒なんて飲まず、大人の相手なんかせず、ただ友達と笑顔でいればいい。
「そうそう、兄さん知ってる??、神社で配られている甘酒って、うちで飲むのに比べてすごく甘いんだよ!」
「!?……あっはっはっはっ!!」
「えっ??なっ何??」
普段うちで飲んでるのが甘酒なんて生易しいものじゃないことに気付いていない涼桔に俺は笑い声を上げる。
涼桔はそれを不思議そうな顔で見つめる。
組の息子として、大丈夫なのかと思うところが涼桔には多々ある。
でもそれで構わない。
ここを継ぐのは俺だから。
だから弟である涼桔は、これからも、組の息子らしくなく、優しく、純粋なままでいろ。
涼桔、兄貴の言うことは聞いておけ。
「若に頂き物です」
「若」
「うるせー、お前達で対処しとけ。それから走るな、騒がしいしむさ苦しい」
元旦の朝、大の大人の男達がバタバタと騒がしく家の中を駆け回る。
その音に、昨日飲んだ酒が抜けきっていない頭はガンガンと殴られているような痛みが響く。
それなのに、そのついでに男達が俺の名前を呼んで傍に来る、その騒がしい声とむさ苦しい状況に、余計に頭が痛くなる。
「しかし若……」
「うるせーって言ってんのが、聞こえねーのか??……」
なおも喰い下ってくる男にゆっくりとそう言い、横目で睨むと、男達は黙って頭を下げて去って行った。
「はぁー……」
悪かったとは思う。
何せ俺はここ、荒川組の若頭、いつかはここを継ぐ存在。
なのに正月で挨拶回りに来たやつに顔を出さず、他の組からの貰い物の礼もしていない。
正直、若頭としての仕事をまだ何もしていない。
でも、昨日夜中まで親父や組のやつ達に付き合って酒盛りをしてやったんだから、ちょっとの間休むくらい許してほしい。
何せ今年は去年とは違い、涼桔が家にいなかったからな、絡まれるのは全部俺にだ。
「まあ……そうならないようにしたからなんだけどな……」
昨日の夜、涼桔を初詣に向かわせたのは、あいつを酒盛りをしている場所にいさせないようにするため。
昔から、家柄的に宴会や何やらで大人達が酒を飲む機会がたくさんあった。
そんなとき、子供がいたら、おっさん達はなぜか子供に絡みたがる。
荒川組の頭の子供である俺と涼桔は、その場にいる唯一の子供だったため、幼い頃から絡まれていた。
だいたい酒を飲まされたり、何歳なのかとか好きなものは何だとかしょうもない質問をいくつもされたり、デカい瓶を持つのが可愛いと思ったからか一升瓶を持たせて酌をさせたり……。
殴られるとかそういう絡みではなく、可愛がられていた感じではあったが、要するにウザ絡みだ。
それが当たり前になって、おかげでいつの間にか酒に強くなっている。
そういや、俺は大分早い段階で酒を飲まされていることに気付いていたが、涼桔は未だに自分が飲まされているものが酒だとは思っていない。
「坊ちゃん、これ海外から取り寄せたジュースですよ」
「坊ちゃんこのジュース美味いから飲んでみてくださいよ」
そんなことを冗談で言って酒を勧められていることに、涼桔は気付いていない。
天然といえばそうなんだが、涼桔が気付かない理由、それは組のやつ達のことを本当の家族のように思い、何でも信用しているから。
組の息子として、大丈夫なのかと思うところが涼桔には多々ある。
でも……。
「兄さん大丈夫??」
「ん??……、ああ、涼桔……」
寝転がる俺の頭上から聞こえた声に目を開けると、立ったまま俺を見下ろす弟の姿。
「顔色悪いよ、水でも持って来ようか??」
「あー、いい、大したことない」
心配そうに声をかけて、そのまま水を取りに行こうとした涼桔。
俺はその足を掴んで引き止める。
「それより涼桔、昨日は楽しかったか??」
開いた口は何か言いたげにしていたが、何かを言われるより先に、俺は質問をする。
「うん!すごく楽しかったよ!、ぼく友達と一緒に初詣行くなんて初めてだったから、テンション上がっちゃったよ」
すると、涼桔の表情が明るくなり、昨日の話をしてくれる。
いつもは聞かないような声のトーンと、いつもより少しデカイ声に、本当に楽しかったんだとわかる。
よかった、楽しんだようで。
昔、家業のせいで友達ができなかった弟。
俺は友達とかそういうのに興味がなかったから構わなかったが、バカみたいに優しい弟に友達ができなくて、そのことで落ち込んでいる姿を見るのが嫌だった。
笑っていてほしいのに、昔のこいつは全然笑わなかった。
でも今は、ちゃんと涼桔のことをわかってくれる仲間ができ、楽しそうだ。
高校生らしい、純粋な笑顔。
それを俺には作ることはできない、だからせめて、それを作れるやつ達のところへ行くようにと見送る。
昨日、涼桔を初詣に見送ったのも同じだ。
酒なんて飲まず、大人の相手なんかせず、ただ友達と笑顔でいればいい。
「そうそう、兄さん知ってる??、神社で配られている甘酒って、うちで飲むのに比べてすごく甘いんだよ!」
「!?……あっはっはっはっ!!」
「えっ??なっ何??」
普段うちで飲んでるのが甘酒なんて生易しいものじゃないことに気付いていない涼桔に俺は笑い声を上げる。
涼桔はそれを不思議そうな顔で見つめる。
組の息子として、大丈夫なのかと思うところが涼桔には多々ある。
でもそれで構わない。
ここを継ぐのは俺だから。
だから弟である涼桔は、これからも、組の息子らしくなく、優しく、純粋なままでいろ。
涼桔、兄貴の言うことは聞いておけ。