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何も感じないこの世界に、思い入れもなければ執着も無い。それこそが不幸なのだとしても、それすらどうでもよかった。


不幸と幸福の違いすら分からずに、ただ無感動に過ごす日々は本来ならば苦痛なのだろうが…如月 鳴世はそういった世界に辟易していた。


如月 鳴世の世界とは、純白でしか染められないのだから。















神谷 流星 Kamiya Ryusei は鋭すぎる金の瞳を見開かせた。まるで夜行性の獣のようなその瞳の先には、一人の美貌の少女が。


少年とも見える中世的な美貌の彼女は、人形のようにピクリとも表情を変えない。教室中が、彼女に魅了された。


「…転校生の、如月 鳴世さんです。…鳴世さん、席は後ろの空いているところですから。」


自己紹介もなく、担任の言われた席に如月 鳴世は座る。一つ一つの動作が洗練されたように美しく、それでいて呑まれそうな雰囲気を纏った彼女。


流星は隣に座った人形のような如月 鳴世を凝視する。周りから見れば、流星が鳴世を睨んでいるように見えるのだが、元々彼は目付きが悪いのである。


ハーフの母親から譲り受けた金の瞳は、一人の少女だけを写している。


ふと、如月 鳴世が流星の方を向いた。
ドキリと不自然に流星の胸が高鳴る。


何を言うこともなくただ視線が絡まる。らしくない緊張を覚え、流星が口を開こうとした瞬間だった。


如月 鳴世が、その人形のような無表情に微かな切なさを浮かべたのだ。それはまるで、何かを思い出しているかのような……。


流星ではない、他の誰かを写しているようにも思えた。