如月 鳴世の忠実な執事、杏藤 Andou は鳴世よりも二つ年上で半年くらい前に彼女の執事として如月本家にやって来た。というよりも、鳴世が杏藤をとある名家から引き抜いたのだ。
訳ありだった杏藤は、自分を救った鳴世に多大な恩を抱き勝手に来て勝手に執事となった。鳴世自身は、彼が如月の有能な人材になると踏んで引き抜いたのだが、こうなるとは誤算と言えよう。
ともあれ、杏藤の鳴世への忠誠心は並外れていて深いもので、それなりに彼は鳴世の役には立っていた。
「御嬢の学校は若さん達もいるんスよね。前みたいにいじめられないとイイっすね、御嬢。」
時たまに、杏藤は主に挑発まがいの冗談を向ける。悪気があって言うのだから、杏藤も中々の性格の悪い男だった。
しかし、当の鳴世は対して怒ること無く、聞いていたのかさえ定かな無反応を見せる。
聞こえていても、何の感慨も抱かなかったらしい。
如月 鳴世は、酷く己の感情に疎い少女なのだ。
「…そういや、あの学校には彼奴らもいるんスよねぇ…。」
面倒になりそうッスねー、と瞳が嬉々として楽しんでいる杏藤の言葉にも、鳴世はただ鼻を鳴らすだけだった。
如月 鳴世が一条高校に転入して翌日、彼女の止まっていた歯車が、動きだした…。