セラフィムの声がリュティアの脳裏に蘇る。

『たったひとつ、命を永らえさせる方法―それは、聖具虹の指輪をはめることです。そうすれば一時的に病気の進行が止まります』

リュティアはためらいなくその細い指から聖具虹の指輪を抜き取ると、アクスの小指にはめた。

「リュティア王女…? 何を…?」

「―約束ですからね」

そう言い残すと、リュティアは桜色の春風のように身を翻した。

階段をおり、宿の出入り口をくぐって、外に飛び出す。

駆ける―駆ける…!

指輪を外す―すなわち居場所が魔月に知れるということ。

急がなければ。あの人が来てしまう。

あの人に対抗できる唯一の可能性―聖具虹の錫杖の力に賭けて、リュティアは深碧の湖めざして駆けるのだった。