「あなたは自分の大切さがわかっていない! 私がこんなに」

リュティアは声を詰まらせた。今にもこぼれそうな涙がアクスの目に焼きつく。

「こんなに大切に思っていることをわかっていない! 一緒に旅をしてきたのは誰ですか? 一緒に戦ってきたのは誰ですか? あなたです、もう、あなたでなくてはならないのに…!」

リュティアは怒っていた。

全身で怒っていた。

共に旅をしてきて、何ものにもかえられない絆が芽生えていると思ってきた。

互いを大切に思う気持ちを分かりあえていると思ってきた。それなのにアクスはわかっていなかったのだ。今さら、ほかの人間を探せなどというのだから。

リュティアの叱咤に、アクスは目の醒めるような思いを味わっていた。

あなたでなくてはならない、その言葉がアクスの心を揺り動かす。

共に行きたい、その気持ちが心の奥底から迸る。しかし、アクスは自分の期待に首を振った。

「だが、私はもう何もできないんだ…だから…」

「だから、なんだというのです」

「え……?」

「あなたはもう、仲間です。仲間の存在が、私の心をいつでも守ってくれます。それだけでいいのです。あたりまえのことです。仲間とは、何もできなくなったからと、すぐに交換するようなものではありません。そんなことも、わかっていてくださらなかったのですね…!」

リュティアの瞳にはまだ怒りが燃え上がっている。

アクスは驚き、衝撃を受けた。

言葉が脳裏をすごい速度で横切っていく。

そのすべてがやっと頭の中に落ち着いた時……、アクスはなんだか泣きたいような笑いたいような情けない気持ちになってきた。

「リュティア王女……」

アクスには、光が見えた。

リュティアから放たれる光。あたたかな光。希望の、光…。

「リュティア王女、すまなかった。私は……」

―ファベルジェ、私は、この人に―――…

アクスはリュティアの細い手を握ろうと思った。

こんな自分を求めてくれるこの人に、どこまでもついて行きたい、ついて行かせてほしいのだと、素直な自分の気持ちを伝えようと思った。


だがアクスは次の瞬間、体をくの字に折り曲げて血を吐いていた。

「…アクスさん!?」

リュティアとカイの悲鳴をどこか遠くに聞きながら、アクスは地面に突っ伏して気を失った。