そしてリュティアは。
リュティアは甘い匂いを運ぶ風に花冠を押さえながら、長い睫毛をゆっくりと持ち上げ空を見上げた。アクアマリンの空を、穏やかに白い雲が流れていく。
―ライトファルス。
不意に響きのよい少年の声がリュティアの耳の裏に蘇る。
―星麗の騎士ではない。ライトファルス―ライトだ。
それは彼女の心を今も焼けつくように熱くさせる思い出だった。
彼女の遅い初恋の相手との、運命の荒波に呑まれた再会。
相手は皮肉なことにこれから戦うべき敵、魔月王猛き竜(グラン・ヴァイツ)だった。
二人の再会はリュティアの死を意味しているはずだった。
が、どういうわけかその時彼はリュティアを殺さず、聖具すら破壊せずに、名前を名乗って去って行った。
―名前を教えてくれた…。
恋とは不思議だった。ただそれだけのことで、こんなにも泣きたいような嬉しい気持ちになれるのだから。
あの時乱暴に頭の上に置かれた手のぬくもりが忘れられない。ただそれだけのぬくもりで、リュティアは前を向いて生きていけるような気がするのだ。
会いたい。
けれど、決して会ってはならぬ相手。
次に会った時は殺すと、彼は明言していったのだから。
―ライト様…。
今はただ、胸の内で彼の名を呼ぶだけで、彼を想うだけで、それだけでよかった。
「昼食ができたぞ」
アクスの声を合図に、三人は立ち上がった。
それぞれの想いはそのままで。
「やった~! ごはんごはん」
「リュー、花冠はこれくらいにして、食べよう」
「はい」
秋の透明な空に、四人の明るい声といい香りの湯気が立ち上っていた。
リュティアは甘い匂いを運ぶ風に花冠を押さえながら、長い睫毛をゆっくりと持ち上げ空を見上げた。アクアマリンの空を、穏やかに白い雲が流れていく。
―ライトファルス。
不意に響きのよい少年の声がリュティアの耳の裏に蘇る。
―星麗の騎士ではない。ライトファルス―ライトだ。
それは彼女の心を今も焼けつくように熱くさせる思い出だった。
彼女の遅い初恋の相手との、運命の荒波に呑まれた再会。
相手は皮肉なことにこれから戦うべき敵、魔月王猛き竜(グラン・ヴァイツ)だった。
二人の再会はリュティアの死を意味しているはずだった。
が、どういうわけかその時彼はリュティアを殺さず、聖具すら破壊せずに、名前を名乗って去って行った。
―名前を教えてくれた…。
恋とは不思議だった。ただそれだけのことで、こんなにも泣きたいような嬉しい気持ちになれるのだから。
あの時乱暴に頭の上に置かれた手のぬくもりが忘れられない。ただそれだけのぬくもりで、リュティアは前を向いて生きていけるような気がするのだ。
会いたい。
けれど、決して会ってはならぬ相手。
次に会った時は殺すと、彼は明言していったのだから。
―ライト様…。
今はただ、胸の内で彼の名を呼ぶだけで、彼を想うだけで、それだけでよかった。
「昼食ができたぞ」
アクスの声を合図に、三人は立ち上がった。
それぞれの想いはそのままで。
「やった~! ごはんごはん」
「リュー、花冠はこれくらいにして、食べよう」
「はい」
秋の透明な空に、四人の明るい声といい香りの湯気が立ち上っていた。