―フューリィは気がついたら、天涯孤独の身の上だったという。

両親の顔も知らず、人の慈悲にすがって生きていた。

わずかな銭と引き換えに、酒場で酔っぱらいが帰ったあとの後始末から厠掃除までなんでもやった。

幸い村はずれのぼろな一軒家が無人だったから家には困らなかったが、寒さをしのぐ火鉢も暖炉にくべる薪もなく、かじかむ手をこすりあわせて震えながら眠りについた夜は数知れなかった。

大抵の村人は大人も子供もフューリィのことを親なし子と蔑んでいたが、一人だけ対等な人間として扱ってくれる人がいた。

村に数人しかいない、ガラス職人のじいだ。

フューリィはじいの名前を知らない。

みな彼をじいと呼んでいたし、じい本人もそれで満足していた。

じいはフューリィのことを「小さな友達」と呼び、お金のないフューリィに“絆のグラス”をつくってプレゼントしてくれた。じいのことを語る時、フューリィの目はどこか寂しそうに遠くをみつめた。

「―そのじいも僕が七歳の時に亡くなったんだ。それからはひとりぼっちだった…」

フューリィはただやっとのことで生きるだけの厳しい生活の中、いつもうつむき、疑問を抱いていた。

なぜ、生まれてきたのだろう。なぜ、生きているのだろう。

フューリィの瞳が星のない闇の夜空のように暗くなる。

パールは相槌もいつもの憎まれ口も忘れて話にひきこまれていた。

「そんな時、セラフィム様に出会ったんだ」

黒い夜空の瞳に一瞬にしてきらめく星の輝きが宿るのを、パールは見た。