「―だが」

シュヴァリエが語気を荒くする。

「あの男は弟を見殺しにし、和平条約をめちゃくちゃにして戦争を起こしたんだ」



リュティア達のもとを去ったアクスは、筆舌に尽くしがたい苦しみの中にいた。

食べることも飲むことも眠ることもできずに、ふらふらと街をさまよう。

雨に濡れ赤い髪をさらし、ゴミ捨て場でうずくまるアクスに、近所の主婦らしき女性が温かいスープを恵もうとした。が、彼の風貌に気づいて急に態度を豹変させた。

「お前はアクスじゃないかい!? この、王子殺し!!」

頭からスープを浴びせられても、アクスには何を言うこともすることもできなかった。すべて本当のことなのだから。

白日の下にさらされた罪。リュティア達と旅することで一度は忘れられたと思ったこの罪の後悔と苦しみ…。それはうずみ火のように眠っていただけで、今また激しく燃え上がっていた。

首にさげた銀の鎖が喉元に、なんと冷たいのだろう。

アクスはうつろな視線を空に向け、思い出す。思い出してしまう。あの日のことを…。

あの、すべてを失った日のことを…。