ファベルジェは今旅装を整えたアクスと向き合いながら、たとえ果たされなくても、アクスがあの約束を忘れないでいてくれればそれだけでいいと思った。

「もう行くんだろ、さっさと行けよ…アクス」

ファベルジェはこの時初めてアクスを名前で呼んだ。せめてものはなむけのつもりだった。だが、アクスはふんと鼻で笑って歩み寄ってきた。

「行く? 何を言っている、さっさと案内しろ。もちろん、私の部屋は用意しているんだろうな」

「―――――――――は?」

「褒賞は確かにもらった。なのに、ピティランドへの旅の護衛がまだ終わっていない。私はまだまだ褒賞に見合う分だけの働きをせねばなるまい。違うか、ファベルジェ」

アクスも初めてファベルジェを名前で呼んだ。

「ち、ち、ちが…」

ファベルジェは目を白黒させてから、突然弾けるように笑い出した。

「ちがわねぇ! ちがわねぇよ!」

ファベルジェは笑った。涙が出るほど笑った。

「アクス、あんたを俺の騎士に任命する! 褒賞に見合った分だけ、俺のそばで俺のために働いてくれ!」

「承った」

二人はにやりと笑って拳を突き合わせた。

やがて斧使いの二人の主従はプリラヴィツェで伝説となった。

赤い髪の勇者と、金髪の王子。

二人は街の治安を守り、動物たちの森を守り、騎士たちを強くたくましく育てた。

この頃から、ファベルジェは他の兄弟たち、とくに長男シュヴァリエと打ち解けるようになった。

ファベルジェのことをもう誰も不良王子と呼ばなくなった。

王子は今までほったらかしだった領地に自然公園をつくり、野生動物たちと自然に触れ合えるようにした。これがいわゆる“ガラスの都会人”たちにうけ、領地は潤い人々の生活の質が向上した。

アクスは妻を娶り子供も生まれた。

根なし草の傭兵がやっと永住の地を定めたのだ。

アクスの妻はお産がもとで儚くなったが、娘はまるで亡くなった妻の分まで生きるかのように生命力にあふれ元気に育った。

そうして三年の月日が流れた。

すべてはこのまま、平和にうまくいくものと思われていた――。