―斧が好きだ。
自室を見渡して、ファベルジェは微笑む。
部屋の中央にどんと置いてあるのはアクスから練習用に譲ってもらった使い古しの片手斧で、アクスが軽々と振り回す重い斧と比べたら見劣りするけれど、好きだった。それがあるだけで、よそよそしかった部屋が、自分らしい空気に染まるようで嬉しかった。
アクスは厳しい教師だった。
体力の限り走らされ、手のあちこちに血マメができるまで基本技を繰り返させられた。
それでもファベルジェは毎日が楽しかった。
好きこそものの上手なれと言うか、普段から喧嘩で鍛えていた体に斧という武器はぴたりと合ったのに加え、熱心に練習を繰り返したので彼の腕前はみるみるうちに上達した。
この国の人はほとんど斧を使わないが、そんなことは構わなかった。斧が、自分の人生に新しい光をもたらしてくれているような、そんな気がしていた。
斧の特訓を始めて数か月が経ったある日のこと――。
「赤毛のおっさん、俺は旅に出ようと思う」
あまりにも唐突に、ファベルジェがそう切り出した。いつものように王城裏の秘密の湖に斧の訓練をしにきたアクスは、片眉をはねあげる。
「どこへ行くんだ?」
「南の島国ピティランドへ」
それは途方もない話であった。その無謀さはピティランドから危険な航海を乗り越えてこの大陸にやってきたアクスが身に染みて知っている。
自室を見渡して、ファベルジェは微笑む。
部屋の中央にどんと置いてあるのはアクスから練習用に譲ってもらった使い古しの片手斧で、アクスが軽々と振り回す重い斧と比べたら見劣りするけれど、好きだった。それがあるだけで、よそよそしかった部屋が、自分らしい空気に染まるようで嬉しかった。
アクスは厳しい教師だった。
体力の限り走らされ、手のあちこちに血マメができるまで基本技を繰り返させられた。
それでもファベルジェは毎日が楽しかった。
好きこそものの上手なれと言うか、普段から喧嘩で鍛えていた体に斧という武器はぴたりと合ったのに加え、熱心に練習を繰り返したので彼の腕前はみるみるうちに上達した。
この国の人はほとんど斧を使わないが、そんなことは構わなかった。斧が、自分の人生に新しい光をもたらしてくれているような、そんな気がしていた。
斧の特訓を始めて数か月が経ったある日のこと――。
「赤毛のおっさん、俺は旅に出ようと思う」
あまりにも唐突に、ファベルジェがそう切り出した。いつものように王城裏の秘密の湖に斧の訓練をしにきたアクスは、片眉をはねあげる。
「どこへ行くんだ?」
「南の島国ピティランドへ」
それは途方もない話であった。その無謀さはピティランドから危険な航海を乗り越えてこの大陸にやってきたアクスが身に染みて知っている。