「お~い、できたぞ~」

アクスの野太い声を合図に、鍋を囲んで四人の早めの夕食が始まった。

「いただきます!」

リュティアが丁寧に祈りを捧げている間に、パールががつがつとものすごい勢いで食事に食らいつく。今日のメニューは野菜と鶏肉のチーズフォンデュ、余った夏野菜のパンピザだ。

「…おいしいです!」

とろけたチーズと具の絶妙な絡み具合、ふっくらと焼けたパンピザは頬が落ちるほど美味だった。伊達に男手ひとつで娘を育てていないアクスは野趣に富んだ料理から伝統料理までレパートリーが豊富だったが、中でもチーズを使った料理は絶品なのだ。

パールがピザを三切れ同時に口に詰め込みながら言う。

「う~ん、やっぱり塩味がもう少し…」

「そんなに食いながら文句を言うな」

「あ、お肉が余ってる。それ僕が―ああっおにーさん」

「お前は食べ過ぎだ。小さい体のどこにそんなに入るんだか。ちょっとは遠慮しろ」

鍋の中の肉をカイに奪われたパールは思いきり頬をふくらませる。その様子にリュティアは目を細める。

「パールは本当に、食べるの大好きさんなんですね」

「…ただの大食い生意気小僧とも言う」
とはカイ、アクスの二重音声だ。

「ひっど~いその言い方。食べるの大好きさんだよ~だ」

パールがにこっと得意の猫かぶり笑顔を浮かべたのを見て、リュティアはぽっとなる。

「……かわいい」

「どこが。リューは騙されてる。完全に騙されてる」

少女というものはどうも見た目のかわいいものに弱いらしい。

「あ~もうおなかいっぱい。乙女(ファーレ)、今日も本を読んでから寝ようね」

「いいですね」

本好きなリュティアとパールの二人は、旅路の途中にささやかな貯金で買った小説を二人で読んでから寝るのを日課にしている。

食事が終わると大抵四人は早めに眠りにつく。そして夜明け前から旅を再開するのだ。

二人の読書タイムのあと、あっという間に赤い森をさらに赤く染める夕焼けが終わり、星麗のやさしい息吹のように夜の帳がおりる。満点の星の光瞬く下、ふくろうが歌うように鳴く声が一同の耳に心地よく眠気を誘う。

「おやすみ…って、イタッ! 何これ、え~っ、どんぐり!?」

パールの大げさな声に、リュティアとカイはこっそり笑い合うのだった。