“赤い鋼の傭兵”とその男は呼ばれていた。その名の通り髪は炎のように赤く、見上げる体躯は鋼のように強靭だ。

「このやせっぽち! 追いつけるもんなら追いついてみろってんだ!」

「や~いやせっぽちめ!」

「ま、待ってよ~~っ」

今街角の彼の前を三人の子供たちが駆け抜けていく。

背が高くがっしりとした二人の子供と、痩せて小さい一人の子供。

男――アクスは昔を思い出す。やせっぽちとばかにされた昔を。

今でこそ赤い鋼などと呼ばれているが、アクスは決して生まれながらの戦士ではなかったのだ。強さを何よりも尊ぶ南の島国ピティランドに生まれながら、いつもやせっぽちとばかにされ、心に傷を負っていた。アクスはその傷を力に変えて、誰よりも強くなろうと努力しただけなのだ。

―強くなりたい。もっと強くなりたい。

その頃の想いが今も胸にある。強さでもって名をなし、どこまでものしあがれという祖国の教えに準じて、アクスはピティランド一の戦士と言われるようになった時旅立ちを決めた。

危険な航海も乗り越えこのエルラシディア大陸にやってきた。それからは傭兵として戦争と聞けばどこにでも赴き、“赤い鋼の傭兵”と恐れられるまでになったのだ。

アクスは今ウルザザードとトゥルファンの戦争での大きな仕事を終え、息抜きにプリラヴィツェ王都ラヴィアにやってきていた。何よりもまず上等な酒が飲みたい、とアクスは思った。街一番の酒場とやらに行ってみようではないか。

かくして不良王子と赤い鋼の傭兵は、運命の出会いをする――。