リュティアは危険を承知で桜色の髪をあらわにし、身分を盾にとって王太子との面会を要求した。それはすぐに叶えられ、リュティア達はついに知ることとなった。アクスの過去を…。

「―私の知っていることを教えよう。これは、プリラヴィツェの１２番目の王子の物語だ…」

シュヴァリエの声が、古い物語を紡ぎ出す…。




「やめろっつってんだろ！」

右腕に、肉がねじれ骨が軋む確かな手ごたえがあった。短い呻きと共に、背の高い騎士が後方に、面白いほどよくふっとんでいく。ファベルジェは自分がまた人を殴ってしまったことに気がついたが、構うものかと鼻を鳴らした。

「とにかく俺は認めねぇ、絶対にやめさせてやるからな！」

ファベルジェは捨て台詞を吐くと、肩を怒らせ踵を返した。背後のざわつく気配、殴られた騎士への心配の声、駆け寄る足音などを、後ろ手にぴしゃりとドアを閉めることで消し去る。

―ああ、むしゃくしゃする！　どいつもこいつも！

騎士たちが嫌いだ。

まなじりを吊り上げどすどすと歩き始めた彼の視界を、きらめくガラスの壁や、ゆったりとしたドレープを描く豪奢な布飾りが流れる。その美しさが今は煩わしい。

―この城が嫌いだ。

綺麗すぎて、息が詰まる。まるでガラス細工にでもされるようだ。

彼はこの繊細すぎる住まい―プリラヴィツェ王城の中、自分だけが異質なもののように感じていたし、実際そうだった。

この国の１２番目の王子でありながら喧嘩っ早く乱暴者で通っている彼は、レイピアを国技とし繊細な美を尊ぶこの国の人々と決定的に何かが合わなかった。

異質なのはその気質だけではなかった。彼の容貌をひとたび見れば、皆指さし目を丸くする。

それは彼の髪が色素の薄い金茶色をしている上、つんつんとあちこちで尖っているからだ。

彼は持って生まれた黒髪の色を弱酸で抜き、樹脂からとったムースで固めているのである。

すべては反抗心から、彼にレイピアや繊細さや優雅さを求めてくるすべての事柄への反抗心から、彼はそうしているのだった。王家の人々は眉をひそめて陰で彼をこう呼ぶ、不良王子と―。