一行は目を見合わせ、王太子殿下と呼ばれた人に再び視線を注ぐ。

それぞれの頭の中を情報が駆け巡る。

シュヴァリエ王太子殿下と言えば、11人いるプリラヴィツェの王子の中の長男。武芸に秀で、闊達な気性で評判も高い世継ぎの君――。

「約束を反故(ほご)にするなど、分別のある大人のやることではない。さあ、客人に褒美の宝玉を渡すのです」

「殿下、ですが…」

「――早く!」

鋭い一喝に恐れをなして、エリアンヌはそそくさと宝玉をカイの手に渡した。一行はついに虹の宝玉を手にしたのであるが、誰もこの展開についていけず、喜ぶより驚いて目をぱちくりさせるばかりである。

「それと、伯母上…あなたとこの屋敷には今日から騎士団の取り調べがはいる」

「えっ!?」

「ここにいるイルアは私の忠実な侍女でな、…あなたの蛮行の噂が真実であるか調べてもらっていた。そして今日ついに、証拠を掴んだというわけだ」

シュヴァリエの隣に控える新米侍女イルアの姿を見て、エリアンヌは一気に青くなった。

「ひっとらえよ」

シュヴァリエの命令ひとつで、彼の後ろから大勢の騎士たちが現れた。彼らはエリアンヌを左右から取り押さえると、問答無用で引っ立てて行った。

あとに残されたリュティアたちのもとに、シュヴァリエが歩み寄り気さくに微笑みかける。

「つまらぬものをお見せしてしまった。どうぞその宝玉をお持ちになって―――」

シュヴァリエの言葉が途中で不自然に途切れた。一同を見渡していた瞳が、凍り付いたように一点で止まっていた。

彼の視線は、アクスの姿をとらえて止まっていた。

「お、まえ…――お前は…!!」

アクスがその視線に耐えきれないとでもいうように顔をそむける。その表情には苦渋が滲んでいた。

「アクス…! アクスではないか…!」

「…………」

アクスは答えない。リュティア達は思わぬことの成り行きに息を詰めて見守ることしかできない。シュヴァリエは優しげだった顔付きを豹変させてぎっとアクスを睨みつけた。

「この、裏切り者め! のこのこと、どのつら下げてこの国に帰ってきた! 去れ、去るがいい、お前の顔など、プリラヴィツェの民は皆見たくもない!!」

それは糾弾、あまりにも激しい稲妻のような糾弾だった。その稲妻はアクスとシュヴァリエの間に氷のような亀裂を走らせた。

アクスはただ、うなだれてその場に立ち尽くした。