「こんなのは認めません!!」

二人の空気をぶち破って、エリアンヌの金切り声が中庭に響き渡った。

「絶対に、認めないわ! 宝玉もさしあげない! さしあげないったら、さしあげないわよ!」

エリアンヌは血の見世物が見たかったのだろう、駄々っ子のように足を踏みならしている。

「ちょっとおばさん! それは約束が違うんじゃないの!」

「そうだよおばさん! カイお兄さんはちゃんとやったんだから!」

少年二人が口をそろえて文句を言ったが、「おばさん」は逆効果だった。

「お、お、おばさんですって…」とエリアンヌが気色ばみ鬼のような形相で二人を睨みつける。

アクスが少年二人をぽかりと殴りつけ、カイはなんとか話を持ちなおそうと「エリアンヌ様」と声をかけるが、エリアンヌは手に持った虹の宝玉とともにふんと鼻を鳴らしてその場から立ち去ろうとしている。

「エリアンヌ様、その宝玉はどうしても必要なものなのです。どうか――」

リュティアがエリアンヌに追いすがろうとしたその時、リュティアの声に重なる声があった。

「―見苦しいことはおやめなさい、伯母上」

それは決して大きな声ではなかったが、静かな威厳に満ちた声、人に命令することに慣れた声だった。皆が一斉に声のした方を振り返った。

ちょうど母屋の出入り口から、一人の背の高い男性が中庭に歩み入ってくるところだった。全体にほっそりとして華奢だが、堂々とした雰囲気が滲み出る30代半ばくらいの男性であった。その姿を見てエリアンヌが目を剥いた。

「シュヴァリエ王太子殿下…!」

「――おうたいし」

「―――でんか?」