―カイ…?

初めて見るカイのその表情に、リュティアははっと目を奪われた。

知らず頬が上気する。カイがまるで別人のように見えた。

リュティアは気づいていなかったが、それはカイを初めて異性として意識した瞬間だった。

うなりをあげて矢が飛来する。しかしリュティアはカイから目を逸らせない。矢が届く…! その一瞬!

リュティアの頭上でシュパッと小気味よい音が立った。

矢は、見事にりんごだけを射ぬいて楓の木に突き立っていた。

二人を取り巻いていた者たちの間にどよめきが起こる。目の前で披露されたカイの妙技に皆舌を巻いた。

リュティアはまだ、呆然と立ち尽くしていた。まるで、矢とともに胸を射ぬかれたように。その瞳にはカイしか映っていない。

リュティアは胸を押さえ、ひたすらカイを見上げる。

今までリュティアは、無意識に兄の面影をカイに重ねて見ていたのだ。それが今完全に消え去り、そこに一人の青年としてのカイが風のように爽やかに現れた。それはリュティアにとって驚きととまどい以外の何物でもなかった。その感情と共に、今まではまったく思ってもみなかった疑問がリュティアの胸にたちこめ始めた。

―私はカイを、どう思っているんだろう。

―カイは私を、どう思っているんだろう…。

二人をねぎらうために仲間たちが飛んできても、リュティアとカイはまだ互いを見つめ合っていた。二人の間に、今までとは何か明らかに違う空気が流れていた。カイはそれに気が付き、どきりとした。

―リュー?

リューの様子がおかしい。

まさか、矢に込めた想いが、通じ―――