芝生の中庭、真っ赤に燃える楓(かえで)の木の前に、リュティアが立っていた。その頭にりんごを乗せ、両腕を広げている。

今は黒い長い睫毛は閉じられ、わずかに震えている。こんなに距離があるのにそれがわかるのは、カイの意識が今彼女だけに集中しているからだ。

カイはまるで世界が二人だけを残して切り取られたように感じていた。

残酷な笑いを噛み殺しながらも暗い喜びがまなざしに如実に表れているエリアンヌも、心配そうに遠くから見守る仲間たちも、誰も何も目に入らない。

リュティアの髪のやわらかな動きに、カイは風の流れを知る。

リュティアの薄紫の瞳がゆっくりと開く。

二人は静かに見つめ合う。

こんなふうに見つめ合うのはいつ以来だろうか。…わからない。ただ楓の緋色が、二人子犬のようにじゃれ合って遊んだ秋の景色を呼び起こす。無邪気に笑ったあの秋の日。

―あの頃とずっと変わらずにいられたら、よかったのだろうか。

―違う。

今はっきりと、カイは自分の気持ちに気付く。

違う、変わりたいのだと。

変わりたい。

変われたら…

この胸のうちの想いを、伝えられたら…

一歩を。

踏み出したい。勇気を出して…

カイは構えた弓をぐっと引き絞る。

―届け…!


(好きだ――好きだ、リュー)


引き絞られた矢が、放たれる――!