カイはこんな恰好をしている自分を見た時のリュティアの反応が怖かった。

―こんな恰好、別に兄王子ラミアードを見慣れていた生粋の王女リュティアにとっては何でもないだろう、きっと無反応に違いない、似合わなくて驚かれるかも、いや笑われるか、ああそんな気がしてきた…。

一人先走って落ち込むカイの背中をアクスとパールが押し、店の外へと連れ出す。

「わあっ、カイお兄さん、すごいカッコイイよ!」

フューリィの元気な声が聞こえたが、カイは顔を上げられなかった。

まあ、とフューリィの隣に佇むリュティアが、声を上げて驚いたのがわかった。どうせどうせ、と心中でくよくよしながらカイは目線だけを上げる。

すると―――

「素敵です! カイ」

視界の中でリュティアが、ふわりと花がほころぶように笑った。

その輝くような笑顔と共に今の言葉の意味が胸の内に轟き、カイは瞬時に耳まで真っ赤になった。

「そ…そ…そうかな…」

口ごもりながら、カイの脳裏に鮮やかに蘇る記憶があった。

あれはカイが16歳の、護衛官叙任式の時のことだ。

一張羅を着こみ、カイは緊張していた。

護衛官叙任式では、主であるリュティアから直接、剣を授けられるのだ。リュティアはこの時まだ12歳。だがその花も恥じらう美しさは輝くばかりだった。

剣を授けられたあとは皆が美しい主に惚けたようになって戻ってきたので、そのことに敵愾心(てきがいしん)のようなものを燃やしていたのを覚えている。

いよいよカイが剣を戴くために跪いた時だった。剣を授けるためにリュティアがかがむその一瞬、彼女が耳元でカイにだけ聞こえるよう小さく囁いたのだ。

『素敵です、カイ』

その一言に感じた燃え立つような喜びが忘れられない。

あの時のリュティアの姿と目の前のリュティアの姿が重なった。

それはカイに胸の痛みをもたらした。

あの頃の自分たちと、一体何が変わってしまったのだろう。

あの頃とずっと変わらずにいられたら…変わらずにいられたら、よかったのだろうか。