四魔月将が身を翻して出て行ってしまうと、ライトは玉座に肘をついてため息のように長い息をついた。

―なぜ殺さなかったのか、そんなことは、自分が聞きたいくらいだった。

あの日のことを思うと今も頭が混乱してくる。

あの時…あの絶好の機会の時、一思いに乙女を殺そうとする自分を押しとどめる何かが自分の中にあった。それは謎、大いなる謎に満ちた感情だった。それは今も心の奥底から湧き起こり、ライトの心をひたひたと侵し始めている。

この不安定な思いはおそらく不安だろう、とライトは思った。

なんと不吉なことだろう。これから世界を闇に陥れる魔月の王が、不安など。自分はあの小娘を恐れているのだろうか。

「どこにいる、聖乙女(リル・ファーレ)―――」

魔月将たちに言われなくとも不吉の元は滅ぼすつもりだった。

ライトは懐から邪闇石をいくつか取り出し、掌の上に乗せて眺めた。

この石で魔月たちに、知能を与えることができると知っている。だがそれはまだだ。簡単に魔月将たちの願いを叶えてやっては癪ではないか。それよりも――

ライトは自分のやり方で聖乙女を探すつもりだった。日に日に禍々しい力がライトの中に満ちてくるので、それができるとライトは確信していた。

ライトが目を閉じて聖乙女を思い浮かべると、邪闇石が赤い光を放って宙に浮かび上がり、みるみるうちに合わさってひとつの小ぶりな水晶球になった。

だが、残念なことに、水晶球は聖乙女の居場所を知らせてくれることはなかった。力が足りないのだ。

そのかわり何かあたたかいものがライトの心に直接流れ込むように伝わってきて、ライトは思わず水晶球を取り落した。

「………なんだ、今のは」

玉座から立ち上がり、もう一度水晶球に手を伸ばす。すると――

再びあたたかいものがライトの心に流れ込んできた。と同時に、脳裏に様々な色がひらめく。爽やかな橙色、澄んだ空色、そしてやさしい桜色―

これは聖乙女の感情の波だとライトにはなぜかわかった。彼女の抱く感情が色と光になって流れ込んできたのだ。だが、こんな感情をライトは知らなかった。

こんな役に立たない水晶は捨ててしまおうとライトは思った。だがどういうわけかライトはそうしなかった。

ライトは水晶球を、乱暴なしぐさで懐にしまいこんだ。