アクスはフューリィを草むらに横たえると、ゴーグを追って駆け出しながら、振り返って笑った。それは不敵とも呼べるような大胆な笑いだった。

「約束を、守りたいだけだ」

「え……?」

なぜアクスがセラフィムとの約束を知っているのかと、フューリィの頭で疑問符がはじけた。しかしそれを尋ねる前に、アクスの背中は遠ざかっていった。

―約束を守りたい。

アクスは駆けながら、リュティアの面影を思い描いていた。

リュティアと―大切な仲間と約束したのだ。思うとおりに生きると、約束したのだ。だから自分は思うとおりに生きる。約束を、守る。

―何かを守るために、この力を使いたい。最後まで。

いつかのファベルジェの想いがアクスの想いを強くする。

リュティアが残してくれた聖具の力で、アクスは今やっとのことで動けるようになっていた。

リュティアの言葉で心の傷は癒され斧も使えるようになった。が、やはり額には脂汗がにじんでいた。長くはもたない、それはわかっていた。

ゴーグが雄たけびをあげながら、手当たり次第に村の門前広場を破壊しはじめている。

ガラスの建物が粉々に砕け、井戸に土砂が降り注ぎ、街路樹がなぎ倒される。

今日は市が立つ日だったのだろう、山と積まれた果物や野菜が道に転がりつぶれていた。

アクスはフューリィやセラフィムや村人たちの想いが詰まった村を、これ以上破壊させるつもりはなかった。