「やった! これで俺も昔のように強くなれる!」

ゴーグは醜い顔に喜色を浮かべ、邪闇巨石を大きな口の中に放り込んだ。そして封印をものともせずばりばりと噛み砕き、飲みこんでしまった。

フューリィは息を詰める。

何が起こるというのだろう。

ゴーグは不意に両手で胸を叩いて雄たけびをあげた。

―ウォォォォォッ!!

それは地鳴りのように空気を震撼させる雄たけびだった。その余韻がこだまとなって殷々と響き渡る中、フューリィの目は信じがたい光景をとらえた。

周囲の大地がべりべりと引きはがされ、土くれと砂をあたりに撒き散らしながらゴーグの周りを取り巻き始めたのだ。それはまるで彼を守る盾のようにも、彼の持つ武器のようにも見えた。

「懐かしい―俺の力は大地の力。土と砂は俺のしもべ! ひゃっほう! だど!」

ゴーグがはしゃいだ声をあげながら門に体当たりをはじめたので、フューリィは瞬時に青ざめた。

「やめろ! 石はもう渡した! 村に用はないはずだ!」

「せっかく力を取り戻したんだ、暴れたりないど! すべて、すべて壊してやるど!」

どん、どんとフューリィの背中で門が揺れる。木がだんだんとひしゃげる悲鳴のような音を、フューリィは絶望的な気持ちで聞いた。

「そんな……」

フューリィはそれ以上立っていることができなくなった。

ゴーグの一声で周囲の魔月たちが一斉に襲いかかって来たからだった。フューリィの華奢な体はあっというまに獣たちに押し倒されのみこまれた。

身体中に牙を突きたてられ、フューリィはあまりの痛みに悲鳴をあげた。だが、視線は門をとらえようとさまよった。

門はまだ激しく震えている。

このままでは、門が壊されてしまう。

門が壊されたら、村が―――

激痛に容赦なく意識が遠のいていく。

フューリィは間近に迫る死を感じた。

―セラフィム様、約束を……

その時内側から門が激しく開き、ゴーグを吹き飛ばしたことを、フューリィは知らなかった。ただ自分に馬乗りになった狼のような獣が、いよいよ喉笛に食らいつこうとしているのがわかった。

―約束を……

―守れなかった…。

フューリィの瞼が閉じられる…。