アクス曰くこの時期プリラヴィツェは秋の祭りの季節で、家の中ではよい香りのする木を暖炉で燃やし、炎に照らされながらチェスなどのボードゲームを楽しみ、外では落ち葉を集めて燃やし、毎夜輪になって踊るのだという。

しかしこの時期軒先に必ずさげられるという落ち葉をアクセサリーのようにつなげた飾りも見当たらなければ、広場で落ち葉を燃やした痕跡もない。

事情を聞こうにも、人々はリュティア達と目を合わせず、一行がとった宿の主人ですらまるで関わり合いになりたくないとでもいうように妙によそよそしい。久々の人の住む場所だからと食事処に出かけてみれば、先ほどの老婆の台詞だ。

この村に、一体何があったというのだろう。

「事故でもあったのだろうか」

「何か疫病の類かも知れないよ。病院の方が騒がしかったから」

「魔月が出るのかもしれない…」

アクス、パール、カイが意見を述べたが、リュティアは彼らと肩を並べて夜道を宿に向かいながら、そのどれとも微妙に違うのではないかという気がした。

とその時、民家の影から一行の前に躍り出てくる人影があった。

人影は獣じみた唸りをあげ、腕を振り回して突然四人に襲いかかって来た。

「うわっ」

人影に爪で頬を引っ掻かれ、パールが声をあげた。しかし次の瞬間には、難なくアクスが取り押さえる。よく見ると人影はまだ幼い少年だった。少年は唸りを上げ、体を激しく跳ね上げてはアクスの拘束から逃れようと躍起になっている。

「なんなんだ、こいつ…小さいくせに酒でも飲んだのか」

カイは呆然としながらそう言ったが、パールとリュティアの二人は少年の様子にただならぬものを感じ取っていた。

「パール、この気配は…」

「うん、これはちょっと、厄介だね…オジサン、ちょっとこの子、おとなしくさせてくれる?」

「わかった」

アクスが少年の鳩尾に一撃を見舞うと、少年はくたりとなってアクスの腕の中に倒れた。

「このまま宿に連れて行こう」

「パール、どうする気だ?」

カイの驚いたような質問に、パールは不敵に微笑んで答えた。

「まあ見てて」