「セラフィム様ぁぁぁ――――!」

向かい合う二人から少し離れた湖のほとりに、荒々しい二つの足音が迫る。ひとつはがむしゃらに、もうひとつはそれを懸命に追うように。

「セラフィム様、セラフィム様、セラフィム様―――!」

「フューリィ、待って…!」

パールの制止の声もむなしく、フューリィはほとりにたどり着くなり湖の中に飛び込んだ。セラフィムのいる神殿まで、息が持つはずがないというのに。

「フューリィ!」

フューリィを助けようとパールも湖に飛び込もうとしたとき、湖の中央に大きなさざなみが立った。ざあっと水が渦巻き、そこから人影が現れ、宙に浮いて止まった。

濡れた月の光の髪、滴る水のきらめきよりも美しい人影―セラフィムだった。

彼は片手で白金の錫杖を持ち、もう片方の手でフューリィを抱いていた。

フューリィがセラフィムにすがりついた。

「セラフィム様! うそだよね!? 死んじゃうなんてうそだよね!?」

フューリィの大きな瞳が間近から必死の形相でセラフィムを見上げている。セラフィムはそれを見て、すべてを悟り、悲しげに眉をくもらせた。

「フューリィ…本当だよ…本当なんだ…どうしても言い出せず、すまなかった……」

「う…そだ……」

フューリィの瞳が星のない真っ暗闇になった。

それをセラフィムは、ただ悲しいと思った。悲しみという感情など、星麗には存在しないというのに。

「いやだ…そんなのいやだ…!」

セラフィムの腕の中で、フューリィが激しくかぶりを振った。

「お願い…聖具なんて、完成しなくてもいいじゃない! お願い、お願いだよ…セラフィム様!」

「それが私の使命なんだ…すまない、フューリィ」

フューリィの懇願も、セラフィムの心を動かすことはできなかった。