翌日、あたしは後ろ髪を引かれる思いで蒼太を残し、学校へと向かった。


彼氏人形は食べたり飲んだりしないので、当然排便もしない。


いつまでも待っていろと言われると、大人しくそれに従う人形だった。


それでも蒼太1人を部屋に置いていくのはどこか忍びなくて、あたしは何度も「ごめんね」


と繰り返してから、家を出た。


学校について実紗と話していると、実紗も同じように後ろ髪をひかれたのだと言った。


「人形っていっても彼氏だもんね」


実紗がそう言い、苦笑いをする。


「そうそう。彼氏を部屋に置いておくって今まで経験したことないしね」


そもそも彼氏がいたこともないあたしたち。


人形が相手と言っても、なにをどうしていいのかさえわからない。


ただ、普通の人間が相手だと苦しい沈黙になる時があるけれど、人形相手だからその沈黙も苦しさがなかった。


それは蒼太がいつも笑顔を浮かべてくれているからで、生身の人間にはまねできないことだった。