家に帰って蒼太の機嫌を取りながらも、あたしの心は実紗へと向かっていた。


携帯電話を何度も開いて、実紗から連絡が来てないか確認する。


時間的に実紗はもう家についているハズだ。


葵君は家に帰ってから話をしようと言っていた。


今、実紗は一番恐怖で震えている所なんじゃないか。


そう思うと、とてもじゃないけれど蒼太のインプットされた記憶話を聞く気になんてなれなかった。


手に持っていた携帯電話を再び開いた、その瞬間。


頬に鋭い痛みが走り、あたしの体は壁まで吹き飛ばされていた。


何が起きたのか一瞬理解できなくて、瞬きを繰り返す。


次に口の中に血の味と、違和感が広がった。


ペッとタンをはいてみると、血に混じって歯が1本折れて出てきた。


「俺の話真面目に聞いてよ、陽子」


蒼太がユラリと体をゆらしてあたしの前に立つ。


その表情は冷たく、あたしを見下ろしている。


しまった……。