そういえば今朝から女子生徒たちがそんな事を話していた気がする。


あたしと実紗は先生のことなんて気にかけていなくて、すっかり忘れていた。


「おめでとうございます」


実紗がとってつけたようにそう言うと、先生が白い歯をのぞかせて笑った。


「先生、生徒から絶大な人気がありますけど、彼女はいるんですか?」


あたしはお弁当の具を口に運びながら、なんとなくそう聞いた。


「俺? いないよ」


「どうして作らないんですか?」


続けてそう質問すると、先生は少し笑って「お前たちくらいの年齢の時は異性の事が気になって、恋人が欲しくて仕方がなかったよ」と、言った。


「今は違うんですか?」


実紗が聞く。


「そうだな。いつかまた彼女が欲しくなるかもしれないけれど、今は教師っていう職業が俺にとって一番大切だからな」


「そうなんですか……もし、あたしにもそういう夢とかができていれば、少しは状況が変わっていたのかな」


実紗が呟くようにそう言った。


「どうした戸田は恋の悩みでも抱えているのか?」