「事件……だったんですか?」


「誰がどう見ても事件だった。だけど、証拠がなにもなかったのよ」


恭子さんはそう言い、初めて表情を崩して悔しそうな顔をした。


「警察には知っている限りのことは全部話たし、あたしも依子の友達にいろんな話を聞いて回ったわ。


だけど、犯人の手がかりになるような情報はなにも得られなかった……」


「……依子さんの死は彼氏人形が関係しているという話は聞きましたか?」


思い切ってそう聞いてみると、恭子さん驚いた表情を浮かべた。


「えぇ、その話も聞いたことがあるわ。でも彼氏人形自体現実に存在しているとは考えにくいから、


誰かが面白おかしく噂を流しているんだと思って、あたしすごく腹が立ったのよ」


確かに、身内である恭子さんからすれば彼氏人形に殺されただなんて、タチの悪い噂になるかもしれない。


殺された妹を噂のネタにしていると思って怒っても、普通だと思う。


「恭子さん、落ち着いて聞いてくださいね」


あたしはもう1口お茶を飲んで、緊張で乾いてきた喉を潤した。