「ごめっ、やっぱり気にし、」
「気になるんだ?俺のこと」

『気にしないで』って言って、立ち去ろうとしたのに。

後ろからギュッと抱き締められ、耳元で碧都の低い声が囁いた。

「べっ、別に気になってなんかないわよ」
「へぇ〜?その動揺っぷり。気になって仕方ないように取れるんだけど?」
「そんなことないってば‼︎自意識過剰じゃないの⁉︎」

違う。ホントは気になってる。尚樹が、あんなこと言うから…。

もう食べたとか、なんとかって、変なこと言うからっ。

「アンコって、ホント可愛げねぇな」
「う、うるさいわね‼︎可愛くなくて結構よ‼︎離しなさいよ、この腕」
「イヤだ。なぁ、知りたい?知りたいんだろ?」

どうしてこんなに余裕タップリなの。年下のくせに、ホント生意気。

わたしが黙ると、耳元でクスッと笑うのが分かった。

「ヤってねぇよ」
「…あっそ」
「ホッとしたろ?」
「…別に」

ホントわたしって、可愛くない。ホントは、ホッとしてる。

何でか分からないけど、良かったって思ってる。

でも、それはきっと碧都じゃなくても、尚樹でも眞一郎でも楓でも、同じことを思うはず。

碧都だから、じゃない。

「も、もう離してよっ。わたし、みんなのとこ戻る‼︎」

思いきり腕を振りほどいて、小走りで部屋を出た。

一人、部屋に取り残された碧都が。

「あー、我慢できっかな。杏が抵抗しなかったら、マジで押し倒してたな、俺」

そんなことを、ボヤいていたなんて全然知らなかった。