「あーぁ。俺、杏のピンチ助けたんだけどなぁ?」
「ズルイよ、そういうの…」

わたしのアゴから手を離した尚樹は、両手を後頭部に置いて横目で、わたしを見た。

そして、クスッと笑うと尚樹は首を傾げ、こう聞いてきた。

「ねぇ、ダメ?」

えっとー。わたし一度、家に帰らせていただきたいんですけども。よろしいでしょうか。

これ、アニメだったら。わたし今、鼻血が噴き出してるかと思うのです。

「ん、どした?鼻痛いの?」
「う、ううんっ‼︎なんでもないですっ」

鼻血出たかも、なんて言えない。だってそれくらいわたしには、キュンときちゃったんだもん…。

「あーぁ。雰囲気なくなっちゃったな。俺なりに、がんばってみたんだけどなぁ」

え、これって。わたしが悪いんですか…?キス、しなきゃダメなんですか…⁉︎

「…なんて言ったらいいか、わかんないじゃないっ」
「そこはアレでしょ。恥ずかしそうに俺の前に来て、目ぇ閉じて『い、いいよ…。キス、しても…』だろ?」

乙女かっ‼︎お前は乙女なのかっ⁉︎なんだその、少女漫画的なセリフはっ‼︎

「そんなの、言えないわよ」
「だよなぁ、杏だしなぁ」
「なっ、なによ。それ‼︎」

“杏だしなぁ”って、どういう意味よ。わたしにはそういうセリフが、合わないってこと⁉︎

まぁ、言ったことはないけどさっ…。