「杏は、すげぇイイオンナだよ」

尚樹の右手が、わたしのアゴに触れ、クイッと持ち上げた。

とっさのことに、目が合わせられなくて、慌てて黒目を右に左にと動かした。

「ねぇ、杏。聞いてくれる?」
「なっ、なに」
「俺ね、付き合った子にしかキスとかセックスしないわけ」
「へっ⁉︎あー、うん…」

いや、それって普通のことでしょ?わたしだって、付き合った人としか、そういうことしないわよ。

…って、もう碧都と眞一郎に、されちゃったんだけども‼︎

でもあれは、自分の意思じゃないしっ‼︎事故、そう‼︎あれは事故だ‼︎

「でもさ、今。杏にキスしたくて、たまんねぇの」
「えぇっ⁉︎そ、そんなこと言われても…。困るよ…」
「どうしてくれんの?俺の、この気持ち」

いやっ、そんなこと言われても‼︎わたしだって、なんて答えていいのか、わかんないし‼︎

「俺より、年上でしょ?考えてよ、お姉さん?」

ひゃふっ‼︎反則‼︎反則だってばー‼︎なに、このワザ…。

胸が“キュン”じゃなくて、“ギュン”って痛くなったよ…。

ど、どうしよう…。わたし、このまま尚樹にキスされたら、キスだけじゃ足りなくなりそっ…。