「杏。イヤな客ってさ、たくさんいるわけよ。クレーム付けてきたりさ、料理が遅いとかさ、味がどうだとかさ」
「…うん」
「それはさ、接客やってる人間なら誰しもが経験することなわけ。けどさ…」

伏せ目がちだった尚樹の目が、しっかりとわたしを捕らえ見つめた。

「アレは別」

すごく声が冷たくて、低くて。あの二人に対応してた時の声に似ていた。

「なお、き…。ごめっ」

尚樹の声が怖くて、自然と涙声になった。そんなわたしを見て尚樹は少し慌てた様子で、キュッとわたしを抱きしめた。

「あー、ごめん。杏を責めてるわけじゃないんだ。俺が今どんな気持ちか分かる?」

尚樹の胸の中で、ブルンブルンと擦り付けるように横に振った。

「じゃぁ、特別に教えてあげる」

尚樹の手がわたしの肩に触れると、ゆっくり離れ、見つめ合う形になった。

そして、わたしの目を見つめ言った。

「すっげぇ、ボッコボコにしてやりたいんだよね」
「尚樹…」
「だから、しんがあいつらんとこ行きたかった気持ち分かんだよね」

尚樹はスゴク冷静に対応してたけど、あれは我慢してたってこと…?

「でもこれ、碧都には内緒ね」

もちろん、自分で言うつもりなんかない。けど、どうして碧都には内緒なのか気になってしまった。