「あのね。誰も腕上げろ、なんて言ってないでしょうよ。手のひらで抑えてればいいでしょ?」
「あ、そっか…」

やっだ‼︎恥ずかしい…‼︎もし、わたしがバッと上に腕を上げていたら、尚樹どんな反応したんだろ…。

「なぁに考えてんの」
「へっ⁉︎べ、別になんもっ」
「ウソ。顔真っ赤だけど」

んもうっ‼︎どうしてわたしってこう、ムッツリなんだろ。

尚樹はクスッと笑った。そして、ゆっくりと両手が伸びてきてスルスルッと紐を縛った。

布の擦れる音が、耳に響いて、それが更にわたしの身体を熱くさせた。

「ん、できた」
「あ、ありがと」

『できた』と言ったくせに、全然離れてくれなくて、わたしが一歩後ろに下がろうとすると、尚樹はそれを阻止した。

「な、おき…?」
「どうして黙ってたの」
「え」

きっとさっきのことだよね。わたしが誰にも助けを求めなかったから…。

「杏は、俺らに気使ってたんでしょ?だから我慢してたんでしょ?」
「あ、の…」
「ウソ、はナシ」

そんなこと言われたら、黙ってるなんて、できないじゃん。

でも結果的に、わたしは迷惑をかけている。

尚樹がいても、お客さんたくさんいて大変なのに、尚樹がいない今、扉の向こうではどうなっているんだろう…。