「あのさぁ、お兄さん。俺ら、客‼︎客に、そんなこと言っていいと思ってんの」

けれど、すぐにその威勢は戻っていた。イスを“ガコンっ‼︎”と倒し、尚樹を睨み付けた。

「ねっ、尚樹…‼︎みんな見てるっ。わたしなら大丈夫だっ…」
「そんなに唇、塞いでほしい?今すぐ塞ごうか」

尚樹のことはまだ分からないけど、これはマジな目。

きっと本気で…。キス、する目。だからもう、何も言えなかった。

「なおちゃん、杏ちゃん⁉︎ど、どうしたの⁉︎」

そこへ顔色真っ青の眞一郎が登場した。多分、イスの音で気付いたんだろう。

「しん。こいつら、つまみ出せ」
「えっ⁉︎えっ⁉︎どうしてっ⁉︎」

眞一郎は、何が何だか分からないというように、尚樹とわたしとオトコ二人を何度も見た。

「あのなぁ、お前らみたいなのは客なんて言わねぇの。自分たちで出て行かねぇなら、マジでつまみ出すぞ」
「ふ、ふんっ‼︎そんなこと言って、俺らがここの悪い噂流したら、困るのはお前らだぞ‼︎」

最初はビビっていたものの、言い終わる頃には向こうの強みを出してきた。

さすがにこれはマズイだろうと、尚樹を見上げればクスッと笑った。