「お客様。ご注文がないようなら、帰っていただけますか」

突然後ろから低い声が響いて、何も悪いことしてないのに、“ゴクン”と唾を呑み込んだ。

「はぁ?今さぁ、このお姉さんに注文してたんだけどぉ?ねぇ、お姉さん?」

そう言ってわたしを見上げるオトコ。

「そ、そうだよ‼︎やだなぁ、尚樹‼︎ほら、わたしモタモタしてるからさぁ‼︎ごめんねっ?」
「杏は、しゃべんな。唇で塞ぐぞ」

え、これ…。ホントに尚樹なの…⁉︎碧都より怖いと感じるのは、わたしだけだろうか…。

「お客様。このバイトは今日初めてなもので、まだ接客にも慣れておりません。なので、わたしがご注文お伺いします」
「いいよ。俺ら時間あるし、お兄さん仕事戻りなよ」

なんだ、この空気…。言葉じゃ分からないけど、身体で感じる。

すごくピリピリしてる…。そんな中、更に尚樹が口を開いた。

「お客様、もう一度言います。わたしが、ご注文お伺いします」
「だーかーらーさぁ。聞いてた?俺ら、お兄さんに興味ないわけよ。だからさぁ…」
「なら、帰れ」

な、おき…?今『帰れ』って言った…?言ったよねっ⁉︎

さっきまで威勢のよかった二人も、ポカンと口を開けていた。